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ナレッジマネジメントとは?人材流動性に対応する推進プロセス~製造業に求められる背景と効果

2021/01/22

ナレッジマネジメントとは、従業員個人が持つ知識やノウハウを企業全体へ展開し活用する経営手法です。このナレッジマネジメントの導入は、人材の流動化に強い組織づくりや業務効率化などに大きく寄与します。

ナレッジマネジメントとは何か、また、製造業におけるナレッジマネジメントの重要性について解説したうえで、ナレッジマネジメントを推進するためのフレームワークなどに触れていきます。

ナレッジマネジメントとは

ナレッジとは、知識や知見、技術、スキル、ノウハウなど、業務の遂行に役立つ情報全般のことを指し、ナレッジマネジメントとは、個人の経験による知識やノウハウなどを可視化して、企業全体で共有することでイノベーションを起こし、生産性を向上させる経営手法をいいます。

ナレッジマネジメントのベースとなっているのは、一橋大学の名誉教授で経営学者の野中郁次郎氏が提唱した「知識経営」です。組織が保有する知識には、「暗黙知」と「形式知」の2種類があり、ナレッジマネジメントを推進するには「暗黙知」を「形式知」に変換し、「形式知」の実践を通して新たな「暗黙知」を獲得していくスパイラルアップが重要と位置付けられています。

暗黙知

暗黙知とは、個人が蓄積してきた経験や知識、ノウハウであり、明確な言葉や数字で表現されていないものを指します。いわゆる長年の勘、製造現場であれば「替えの利かない職人技術」は暗黙知にあたり、知識としての伝承が難しく、共有を図りにくいことが難点です。

形式知

一方、形式知とは、暗黙知を明確な言葉や文章、数式、図表などによる表現に転換した知識です。ナレッジマネジメントでは、形式知を組織として共有・活用することで、より高度な知識が創出され、品質や生産性向上につながり、企業が進化していくうえで基盤になると考えられています。

製造業におけるナレッジマネジメントの重要性

ナレッジマネジメントは製造業においても重要視されています。社会情勢の変化によって、企業が競争力を維持するには知的リソースとしてナレッジの有効活用が求められていることが、その背景にあります。

人材の流動化への対応

これまでの終身雇用から働き方が変化したことによって、企業組織の内部に知識やノウハウを蓄積する仕組みをつくり、品質改善や業務効率の向上、人材育成などに有効活用していくことが不可欠となっています。

■ 終身雇用から人材が流動化する時代へ

日本では、高度成長期に終身雇用をベースにした雇用システムが一般化しました。企業側も従業員側も長期雇用を前提とし、異動や転勤、研修、現場レベルでのOJTなどによって多くの経験を積むことで幅広い知見を獲得し、それらが企業内に蓄積されていたのです。

しかし、失われた20年のなかで企業業績の悪化に伴う大規模なリストラが敢行され、将来性を危惧して転職へ向かう動きも活発化し、働き方に変化が生まれました。また、若手の優秀な人材を獲得するため、従来の年功序列の賃金体系に代わり、成果主義が台頭してきたことも、終身雇用の崩壊に拍車をかけました。

ひとつの会社で定年まで勤めるという概念が薄れたことで転職者は増加傾向にあり、人材の流動化はますます進んでいます。また、最近では新型コロナウイルスの感染拡大によって、2021年3月期決算の赤字が見込まれる企業を中心に、大規模なリストラが相次ぐと予見されています。

■ 人材教育の効率化

従業員の入れ替わりが激しくなっている現在では、従来のように知識やノウハウが企業内で引き継がれていかないリスクが顕在化しています。そのため、ナレッジマネジメントを推進して、属人化している知識やノウハウを積極的に蓄積していく必要性に迫られているのです。

こうした現状は製造業においても同様で、人材の流動化を直視しつつ人材教育に力を入れ、短期間で即戦力となる人材を効率よく育成していくことが急務となっています。

従来の製造現場では、「見て覚える」といった形で、長い時間をかけてベテランから若手に自然に業務が引き継がれてきたケースが多く見られました。しかし、これは情勢に即した育成方法ではなくなったため、ナレッジマネジメントによって体系的に業務を習得できる体制づくりが求められています。

高まる不確実性への対応とリスク管理

製造業を取り巻く環境は、大規模な自然災害の頻発や米中の貿易摩擦、さらに昨今では新型コロナウイルスの感染拡大によって不確実性が高まっています。

また、内部的な要因もあり、生産設備の高度化などの側面から、工程管理が適切に行われなければ、生産ラインが不安定化する実情があります。

こうしたさまざまなリスクや生産設備のトラブルに対応するための備えとしても、ナレッジマネジメントの導入は効果的です。類似する事例が生じたときの対応方法などのノウハウを蓄積しておくことで、スムーズに対処できる体制を構築し、サステナビリティの実現に寄与します。

関連記事:2020年度版ものづくり白書3つのポイント「不確実性」「ダイナミック・ケイパビリティ」「DX」

業務効率化

生産年齢人口の減少によって、製造業では中小企業を中心に人手不足が深刻化してきています。その一方で、グローバル化が進む中で国際競争力を向上させることも求められています。また、市場ニーズの変化スピードが高速化していることから、顧客からは短納期での対応を求められる傾向が強まり、製造のリードタイムの短縮も急務となっています。

こうした状況に対応するには、業務効率化によって生産性の向上を図ることが欠かせません。ナレッジマネジメントを推進し、個人や特定の部署に蓄積されていたノウハウを全社レベルで共有、応用して活用することで、業務効率化は大きく促進されます。

ナレッジマネジメント推進プロセスとフレームワーク

「SECI(セキ)モデル」は、ナレッジマネジメントの実践に用いられるフレームワークです。SECIモデルには以下の4つのフェーズがあり、それぞれの頭文字から名付けられました。

  • S=共同化プロセス(Socialization)
  • E=表出化プロセス(Externalization)
  • C=連結化プロセス(Combination)
  • I=内面化プロセス(Internalizaion)

このSECIモデルは循環型のフレームワークとなっており、個人が持つ知識やノウハウといった暗黙知を企業が組織的に管理して形式知化を図り、新たな形式知から再び暗黙知を創出し、サイクルを回していきます。

共同化プロセス:Socializaiton

共同化プロセスは、ナレッジを持っている個人と同じ体験をすることを通じて、暗黙知を暗黙知のまま、他の人へ移転させるフェーズです。体験を通じて、思考スキル(思い・メンタル・モデル)と行動スキル(熟練・ノウハウ)を展開・獲得できます。

たとえば、製造業の現場ではOJTによる教育など、ベテランの作業員の手順を見て、新人スタッフが同じ作業を担うことで、技能や知識を身につけていく行為が該当します。マニュアル化はされてなく、見て覚えていく段階です。

表出化プロセス:Externalization

表出化プロセスは、共同化によって共有された暗黙知を形式知に変換していくフェーズです。

暗黙知は言葉や文章で伝えることが難しく、1人で形式知への変換を目指すのは困難です。そこで、複数人で考えたり、話し合ったりする過程を通じ、言葉や文章といった形で表現していきます。複数人で取り組むことで、1人では当たり前だと感じていて気付かなかった点も引き出せるという利点があります。

また、表出化プロセスでは、抽象的な表現は避けて、他の人が理解しやすいように喩えを用いたり、チャート化したりします。また論理的な視点でディスカッションを行うことや、具体例を挙げることも大切です。

表出化プロセスのひとつにマニュアル化があります。ベテランの作業員から見よう見まねで覚えた作業についてどのように言語化するかをグループで話合い、文章にまとめてマニュアル化していく作業は、表出化プロセスの一例です。

連結化プロセス:Combination

連結化プロセスは、既にある形式知と形式知を組み合わせて、新たな知識体系としての形式知を生み出すフェーズです。形式知は単体のままでは組織に大きな作用を与えることはできません。他の形式知と組み合わせ編集することで、体系的あるいは総合的な知識にすることが求められます。

連結化プロセスでは、作業グループ単位で作成したマニュアルを比較・検討することで新たな視点を得て、部署全体の包括的なマニュアルを作成することなどが該当します。また、形式知にITを活用することも、実践的な連結化プロセスです。

これまで検品の工程はマニュアルに沿って行う体制であったところに、画像認識技術によって製品異常を検出するシステムを導入し、業務効率化を図ることも連結化プロセスの一種です。

内面化プロセス:Internalization

内面化プロセスは、連結化プロセスによって新たに得た形式知を共有して、個人が認知や経験を通じて取り込んでいくことで、新たな暗黙知へと変わっていくフェーズです。そして、新たに生まれた暗黙知は、再び共同化プロセスによって共有されていきます。

たとえば、連結化プロセスによって作成されたマニュアルを実践していくことで、新たなコツが生まれて暗黙知となっていくことが該当します。

ナレッジマネジメントの効果・メリット

ナレッジマネジメントの導入は、企業経営にさまざまな効果をもたらします。

人材の流動化に強い組織を構築したり、派遣社員や期間従業員を活用して業務効率化を図ったりするには、属人化されている知識やノウハウの共有・マニュアル化が不可欠です。また、ナレッジマネジメントの導入によって、派遣社員や期間従業員を活用できる体制をとれれば、業績の変動に強い組織にビルドアップできます。

人材の流動化に強い組織・現場へ

従業員が優れた知識やスキルを持っていても、それが属人化した状態のままでは、人材が流出した際に失われてしまいます。従業員が入れ替わることによって、業務レベルが著しく低下されることが危惧されるのです。

そこで、ナレッジマネジメントを導入し、現場における知識やノウハウの共有を推進することで、人材の流動化に強い組織へと変わっていきます。

派遣社員・期間従業員の有効活用による業務効率化

企業の業務はコア業務とノンコア業務に大別されます。

  • コア業務:売上に直接関わり、高度な判断を必要とする、定型化が難しい業務
  • ノンコア業務:コア業務をサポートする、高度な判断は不要な定型化が可能な業務

このコア業務を正社員が担い、ノンコア業務は派遣社員や期間従業員を活用することで、経営資源の人的リソースを有効に使い、業務効率化を図ることができます。

しかし、派遣社員や期間従業員の受け入れにあたっては、業務の指示や教育を行う必要があるため、受け入れる企業側の準備が必要です。派遣社員は一定のスキルを持っている人材ではありますが、自社の仕事のやり方を熟知しているわけではありません。

また、法律上、原則として派遣社員を同一の部署で受け入れられるのは3年までです。期間従業員など契約社員が結ぶ有期の雇用契約では、原則として契約期間は3年までとされ、更新によって通算5年を超えると、労働者側の申し入れによって無期雇用への転換となります。さらに、派遣社員や期間従業員の側が、3ヵ月や半年といった契約期間満了のタイミングで、退職することも考えられます。

そのため、派遣社員や期間従業員を受け入れるには一定の教育が必要であるものの、多大なコストや手間をかけるのは見合わないとも言い換えられます。

そこで、ナレッジマネジメントによって、属人化されていた作業がマニュアルに落とし込まれていれば、派遣社員や期間従業員を活用した業務効率化を迅速に行える体制構築の原動力になります。

人件費が固定費から変動費に変化

ナレッジマネジメントが浸透し、派遣社員や期間従業員を受け入れる体制が整っていると、人件費の一部を変動費化して、業績の波に合わせて人件費をコントロールすることが容易になります。

正社員の給料は、基本的に固定費として一定の費用が毎月かかるものです。人件費が固定費としてかかっている状況では、経営状況の変化を都度反映した柔軟な対応は難しく、業績が悪化した局面では人件費の負担が重くのしかかります。しかし、業績悪化によって正社員の給料を削減したり、リストラを行ったりするのには、労働基準法などによる制約があるため、容易にはできません。

そこで、派遣社員や期間従業員を繁忙期や業績が好調のときに限定して雇用するなど、業績の変動に合わせた人事戦略を採ることで、人件費の一部は変動費になります。不確実性リスクが高まる昨今の経済状況の中、情勢に応じたフレキシブルな組織づくりを行うことができるのです。

関連記事:人件費を固定費から変動費に変えるメリット~製造原価を削減し人材流動化に強い組織へ

まとめ

ナレッジマネジメントは、企業内で個人に蓄積されている知識やノウハウを企業全体に展開・活用することによって、生産性の向上にもつながっていく取り組みです。人材の流動化に対応できる組織を構築するとともに、人件費を変動費化して業績の変動にも対処しやすい体制をつくれます。

昨今の社会情勢にマッチする、製造業における組織づくりの手法として、ナレッジマネジメントの導入を検討してみましょう。

  • 監修:仙石 太郎(せんごく たろう)
    株式会社リワイヤード 代表取締役
    一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ) 理事(2018年4月~)


    1988年、大学を卒業後、富士ゼロックスにてエリア営業、新規顧客開拓営業、システム営業を担当。1996年に人材開発部⾨へ異動し、ソリューション営業モデルの開発と展開などに従事。2000年より野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)と紺野登氏(多摩大学大学院教授)の指導のもと、知識経営コンサルティングを行うKDIの立ち上げに参画し、主として自動車、電機、機械、化学、商社、流通などの大手企業の戦略部⾨、事業管理部⾨、R&D部⾨、マーケティング部⾨、顧客サービス部⾨を対象に、品質経営、ナレッジマネジメント、組織変革、働きかた改革、知的生産性向上、業務改革、オフィス改革、新規事業開発、イノベーション力強化、ビジネスモデル改革などの各種コンサルティングを提供。2016年4月より価値創造コンサルティング部長。2019年、富士ゼロックスを退職し、知識経営、およびイノベーションの実践支援を生業とする株式会社リワイヤードを設立し、現在に至る。
    - 著書 -
    『ソフトウェアテストHAYST法入門』(吉澤正孝/秋山浩一/仙石太郎 共著) 日科技連出版社 第54回日経品質管理文献賞受賞(2007年)
    『サラサラの組織: あなたの会社を気持ちいい組織に変える、七つの知恵』(野村恭彦・仙石太郎・荒井恭一+紺野登+荻野進介共著、野中郁次郎+小林陽太郎監修)ダイヤモンド社(2008年)

日研トータルソーシングでは、人材活用をトータルでサポートしています。充実した教育カリキュラムの導入によって、高い専門スキルを持った人材育成にも力を入れており、実績も豊富にございます。

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