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【AI/ロボットのプロが語る未来】
コロナ禍で進む製造業のロボット導入には保全メンバーの確保が重要

2021/02/03

コロナ禍の影響を受け人の接触が制限される流れは、製造業でも見られます。端的なのは、工場での流れ作業。注目されているのが、人に代わり作業を行うAIやロボットです。コスト削減や生産効率向上などの観点から、以前から製造現場へのロボット導入は注目されていた。そこで、製造業へのロボット導入の現在ならびに未来を、同分野の専門家である伊本貴士氏に聞いた。
取材・文/杉山忠義 写真/長野竜成

人依存から脱却しロボット・自動化にシフトすべき

ーー まずは製造業における新型コロナウイルスの影響についてお聞かせ願えますか。

一般的には厳しいですが、トヨタ社のように前年比90%近くまで業績を回復している企業も多くみられます。また内情を詳しく調べていくと、企業により業績の差が見られます。わかりやすいところでは、かぜ薬やマスクといった医薬品を作っているメーカーや、免疫力アップに寄与するビタミンやハチミツなどの商品を作っているメーカーは業績が好調です。一方、インバウンド需要に頼っていた、土産用のお菓子を作っているメーカーは大打撃を受けています。

ただ問題なのは、足元の業績よりも、これからのことが読めなくなってしまっていることでしょうね。

ーー それは新型コロナウイルスがいつ終息するか、誰にも予測はできないからでしょうか?

そうですね。ただ予測できないのは新型コロナウイルスの終息だけではありません。

これまで、製造業のビジネスの仕組みは至ってシンプルでした。売れる商品を見定め、集中して生産していけば確実に利益が出る。つまり、いかにして売れ筋商品を見極めるかが、事業を進めるうえでのポイントとなります。従来、この売れ筋商品に関してはいわゆる人の“勘”に頼っていました。そして、この手法で問題もありませんでした。

しかし新型コロナウイルスによって、このようなこれまでの常識が破壊されてしまいました。経験豊富な人であっても、これから先、どのような製品が売れるのか、読めない時代に突入したからです。

ーー 売れる製品が読めなくなったのはなぜでしょうか?

新型コロナウイルスがいつまで続くのか、だけではなく、GoTo事業のようなイベントが急に始まったり、急に中止になったりと、政治家の判断やマスコミの論調などが入り混じって社会のカオス化が強まっているからです。そのためいくら個人が頑張って勘を働かせたところで、これから先の未来は読めるものではない。私はそう、捉えています。

ーー 時代の変化が急速になっているのは感じます。

このようなカオス化する社会で注目されているのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)の活用です。従来頼っていた人の勘ではなく、データならびにそのデータを活用するテクノロジーやツールから未来を読んでいきます。

ここで大事なのは、AIによって予測された未来に頼るだけではなく、その未来に適応するように自分たちを変えていくことです。売れる商品がわかったとしても、新型コロナウイルスの感染が拡大すれば出勤ができなくなったり、最悪の場合は工場でクラスターを起こし、一時的に閉鎖せざるをえない状況になってしまうこともあります。

ーー 実際、経済を回すことを優先するか、それとも感染拡大を防ぐことを優先するかは、とても難しい問題です。

そこで注目されているのが、人の代わりにロボットに働いてもらう未来です。人がいないと製造できない。特別なノウハウを持つ人材がいないと作業がうまく機能しない。このような人に依存していた従来の働き方から脱却し、作業場に人がいなくてもロボットが自動で製造を行うフローに変えるのです。

ロボットの普及が進まなかった3つの理由

ーー 製造業におけるロボット導入は以前からあったように思います。

結論から言えば、製造業におけるロボットの普及は、特に日本においてはあまり進んでいません。理由は大きく3つあります。「価格」「精度」「保全」がネックになっていたからです。

まずは、価格に関する問題ですが、産業用ロボットは大型・小型と大別されます。そして一般的にイメージされる産業用ロボットは前者であり、ファナック社や安川電機社といったメーカーが有名です。人では持てない重量の鉄板を持ち運んだり、製鉄所など人が作業するには危険な場で活躍するロボットですね。

この大型ロボットの普及は、それなりに進んでいました。しかし価格が本体だけで数百万円、周辺設備も含めると導入コストが数千万円以上するため、中小企業が導入するにはハードルが高く、導入は一部の大企業に限定されていました。

産業用ロボットの導入コストは数千万円以上となるため、中小企業の導入は難しかった

次に、精度に関してですが、人でなければ行えない繊細かつ高い精度を求められる作業においては、ロボットでは対応が難しいという課題がありました。

ーー それはどんな作業ですか?

たとえば、工芸品の研磨作業などですね。

ーー なるほど。大きなロボットには難しそうです。

私が福井県のアドバイザーをしていた際、鯖江市のメガネフレームを作っている工場に行ったことがあります。工場ではまさに繊細な作業を職人さんが手作業で行っていました。私が「ロボットの導入を検討しないのですか?」と聞くと、「ロボットでは鯖江品質の研磨が得られない」との回答が返ってきました。

中小企業にロボットが普及しない理由は他にもあります。人ができる作業をあえてロボットで行うメリットがないからです。人の方が低コストですし、作業が確実です。また、ロボットは故障しますが、人であればトラブルがあった際は休暇をとってもらって別の人に代わってもらうことができます。

ーー ロボットは故障をしても修理すればいいのではないですか?

それが、3つ目の保全の問題につながります。保全というのは機械を故障させないように、あるいは故障しても業務の停止が軽微ですむように、計画的に機械の点検・修理・メンテナンスを行う作業ですが、ロボットの場合、これが簡単ではないのです。これまでのロボットはメーカー毎に独自の設計思想で作られているため、ロボットごとに仕様が異っている上に、ブラックボックス化しています。そのため修理はメーカーの指導を受けた人でないと難しく、誰でも対応できるというものではないのです。

また、ソフトウェアの保守においてもロボットを動かすためには専用のプログラムが必要です。このプログラムにおいても、使用言語がC言語などの一般的なパソコン用のソフトウェア開発で利用されるものではなく、ラダー言語というロボットの制御でしか使われないニッチな言語でした。そのため、簡単にロジックを変えることができませんでした。

このような理由から、導入時の設置や調整はもちろん、その後、実際に使用してロボットにトラブルが生じたときや、定期的な保全などのメンテナンス業務はメーカーに頼るほかなかったのです。

中国では5年間で5倍にロボットの導入数が増えている

ーー しかしそのような状況に変化が見られると?

ええ。5年ほど前から、この3つの課題が解決していく風潮にあります。そこに、新型コロナウイルスです。人の移動や密集する作業が忌避される現在、人以外の作業の担い手が工場に必要とされているのです。テクノロジーの進化や発展は需要が高まったときに一気に加速します。まさに今、その状況といえます。

特に大きいのは、価格が大幅に下がったことです。大型のロボットはまだ高価ですが、小型のロボットであれば十数万円という価格で買えるものも出てきましたからね。これはロボットに限ったことではなくIoTデバイスなどにも共通しますが、半導体の価格が下がったことが大きな要因です。

ーー 十数万円のロボットは、具体的にどのような作業を人に代わって行ってくれるのですか?

つかむ、はさむ、はじく、上げ下げ、運ぶ、などです。工場の流れ作業で人が行っている軽作業、単純作業になります。正直、性能も耐久性もそれほど高くありません。しかし、人の代わりに作業を安価で行ってくれることがポイントです。

このような安価なロボットの開発・導入を積極的に推し進めているのが中国です。以前のように一から独自に部品を開発してロボットを作るのではなく、パソコンやiPhoneを組み上げるように作るロボット。既存の世界中で販売されている汎用パーツを組み上げるだけで、そのようなロボットが作れるプラットフォームを整備した中国のロボットベンチャーが現在のトレンドを牽引しています。実際、中国におけるロボットの導入状況を見ると、2017年までの5年間で、導入数は約5倍に増加しています。

ーー 高価で操作やメンテナンスに技術力が必要な大型ロボットではなく、安価な小型ロボットを導入しているのですね。

日本でも小型ロボットを導入している企業があります。スキンケアを中心に化粧品を手掛けるオルビス社です。動画をご覧いただくと一目瞭然ですが、物流倉庫で荷物を運ぶ作業を、人に代わり自動搬送ロボット「AGV(Automated guided vehicle)」が行っています。

資料提供:オルビス株式会社

ーー これだけ大量のロボットが工場内を動き回っているんですね。

こちらのAGVはものを運ぶためのロボットですが、価格は一台百万円以下に抑えられていて、先に説明したような汎用パーツを組み上げて作られた中国メーカー製です。

このような小型ロボットはネットで購入することも可能で、中国の大手通販サイト「AliExpress(アリエクスプレス)」が有名です。

ーー 購入も簡単にできるんですね。

中国はここ数年で多くの工場が新しく建設されている状況です。その中で、白紙の状態から近年のロボット技術を積極導入することを前提に、ロボットにとっての最適な生産ラインの設計を行っています。

その結果、製造コストは以前にも増して下がる。日本メーカーもいち早くロボットを導入しなければ、競争に負けるのは目に見えています。

機械・設備の保全スキルを持つ人材がロボットをメンテナンスする

ーー 「価格」と「精度」については解決されつつあるのですね。では「保全」についての課題は解決されているのですか?

AIやロボットの導入が進むと、人の仕事を奪う、人がいなくなるとの話題がよくあがりますが、私はそうは思いません。それなりに減るかもしれませんが、働き方が変わるだけで、なくなることはないと思うからです。それまで人の手で行っていた作業を石油を動力源とした機械が行うように代わった、第二次産業革命がいい例です。

では、どのような働き方や仕事に置き代わっていくのか。ここで、ロボットの保全・メンテナンスです。これまで大型ロボットにおける保全・メンテナンスは、時間をかけて自社の従業員を教育し、専門知識を身につけたチームを育成する。あるいはメーカーの担当者に任せる。このような流れが一般的でした。

ーー 大型ロボットは人にできないことをするわけですから、保全は必要なコストになります。

しかしこれから普及していく小型ロボットの価格は十数万円ですから、従来のような保全フローではコストが見合いません。そこで、自社の人材で保全やメンテナンスを行う流れになるわけですが、同業務において、これまで機械・設備の保全業務を担ってきた人材のスキルが、間違いなく活きると私は見ています。ロボットのお医者さんのような役割です。

ーー 安価なロボットでも、ちょっとした故障を修理するメンバーが社内にいれば安心です。

もうひとつ、AIにより自動で働くロボットは、いわゆる従来のメカ的な保守・保全スキルに加え、ソフトウェアのスキルも必要になってきます。具体的には先ほども説明した、プログラミングスキルなどです。ただプログラミングにおいても最近の小型ロボットの場合は、メーカー独自の言語ではなくC言語やPythonといったパソコン向けのソフトウェア開発でも利用されているメジャーな言語で実装できますから、一般的なソフトウェアの知識を持つ人材が、保全業務を担うような役割や流れも生まれるでしょうね。

時代の変化に対応する人材は正規雇用にこだわる必要はない

ーー ロボットの導入はもちろん、保全・メンテナンスを行える人材の育成や確保も、あわせて重要だと。

ええ。人材の確保においては自社で育成する、あるいはスキルを持つ人材を人材サービス会社などから派遣してもらう。どちらでもよいでしょう。ただし冒頭で説明したように、現在のコロナ禍の状況では先が読めません。このような状況下で正社員を新たに雇うのは、リスクが高いと考えるのが一般的です。

ですので足りない部分に関しては必要に応じて派遣社員を雇ったり、を活用したりして様子を伺うのが賢明だと私は思います。特にスタートアップのような、ビジネス自体もこれから始めるようなケースでは、事業がうまくいかなった際のリスクヘッジとして、全社員を派遣メンバーで補うのもひとつの策でしょう。

また、これは働き方の選択にも繋がります。IT業界などでは実力のある人ほど、一つの組織には所属せず、その時々で自分のキャリアアップに行かせる仕事を選び、自由なワークスタイルを求めます。リモートワーク化が進む中で、益々そのような考え方の労働者は増えるのではないかと思います。

ーー 全く新しいチャレンジをするなら、そのほうが理にかなっていますね。

これはあくまで私個人の考えですが、自社の社員だけで事業を展開しようと考えていること自体、言葉を選ばずに言えば時代遅れです。正社員でないとチームワークが統制されない。派遣社員の雇用を躊躇う経営者のなかには、こういった考えの方も見られますが、私から言わせればコロナ禍のいま、そのような考えでは取り残されると思っています。

もちろん、チームワークも大事です。しかし繰り返しになりますが今は“先が読めない”時代”なのです。また、イノベーションを目指すプロジェクトにおいて自社の正社員だけで必要な能力を賄うことができることは稀です。

企業文化云々ではなく、プロジェクトベースで適切な人材を配置し、事業を進めていく柔軟な組織作りがトレンドです。このトレンドは、製造業に限ったことでもありません。

ーー 必要な人材を確保するためには、正社員にこだわってはいけないということですね。

私は仕事柄、多くの経営者とお会いしますが、ロボットの導入に限らず事業がうまく進んでいない企業は、人に投資する感覚が乏しいケースが多く見られます。ロボット導入に当てはめれば、お金をできるだけかけずに今ある人材でどうにか対応しよう、との考えです。教材は購入するけれども、あとは従業員任せで、それぞれが努力してスキルを身につけろと。

必要な人材であれば手段を問わずに招く。まずはスピーディーにやってみることが、コロナ禍のような先が見えない時代においては、特に重要です。トライしてみてうまくいかなったから、そこで改めて考え、次の策を練ればいいのですから。


  • メディアスケッチ代表取締役 兼 サイバー大学専任講師
    AI/IoT評論家

    伊本貴士(いもと・たかし)
    1978年生まれ。大学卒業後、NECソフト株式会社、フューチャーアーキテクト株式会社、ベンチャー企業を経てメディアスケッチ株式会社を設立。独自の通信デバイスや、人工知能エンジンなどの開発をする傍ら、企業への共同研究開発を行うコンサルティングサービスを提供する。
    フジテレビ系列『ホンマでっか!?TV』、テレビ朝日系列『サンデーLive!!』などに最新技術の評論家として出演。主な著書に、『ビジネスの構築から最新技術までを網羅 AIの教科書』(単著 2019年6月 日経BP社)、『IoTの全てを網羅した決定版 IoTの教科書』(共著・監修 2017年8月 日経BP社)など。

日研トータルソーシングでは、製造業の設備保全サービスにおける人材活用を、トータルでサポートしています。充実した教育カリキュラムの導入によって、高い専門スキルを持った人材育成にも力を入れており、保全研修の外販実績も豊富にございます。

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