

製造業においては、グローバル競争の激化や市場ニーズの高度化などを背景に、技術革新への対応はますます重要となっています。
とりわけ近年注目されている新技術の一つが、エネルギー効率や高性能化を実現する「光半導体」です。これは製造工程の効率化や新たな製品開発にも貢献する可能性があり、今後の競争力強化に向けて重要な領域といえます。
人事担当者として、この新技術が製造現場にどのような変革をもたらすのかを理解しておくことは、今後の戦略立案に不可欠といえるでしょう。
そこでこの記事では、光半導体の基礎知識から従来の半導体との違い、製造プロセスにおける課題、さらに将来的な需要予測まで包括的に解説します。採用戦略や人材育成計画の策定にぜひお役立てください。
光半導体とは、その名の通り、光の特性を活用した半導体デバイスのことです。光半導体は、光の「発光」「受光」「情報操作」という3つの機能を担います。これは電気信号処理を主とする従来の半導体とは一線を画す特徴です。私たちの身近な製品にも数多く組み込まれ、すでにさまざまな分野で活躍しています。
「発光」の機能を用いた半導体デバイスの代表格は発光ダイオード(LED)で、照明機器の光源や各種表示部、ディスプレイなどに広く採用されています。また、レーザーダイオードは光通信の基幹技術である光ファイバー通信やブルーレイディスクの読み取りに不可欠な発光素子です。このダイオードは、電気エネルギーを効率的に光へと変換する役割を果たします。
「受光」とは外部からの光を捉え、電気信号に変換する働きを指します。光センサーやカメラのイメージセンサーに活用され、たとえばスマートフォンのカメラや産業用センサーなど、日常生活や産業を支える重要な役割を担っています。
光の「情報操作」は、光変調器などで用いられ、光信号への情報付加や光の進行方向の切り替えといった役割を担っています。具体的には、光ネットワークや5G、さらには次世代通信規格であるIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想のような大容量・高速通信の実現に深く関わっています 。情報の高速化とデータの膨大化が進む現代社会において、光半導体の重要性はますます高まっているといえるでしょう。
従来の半導体、たとえばLSI(大規模集積回路)などは、主に電気信号の計算や制御を担う機能を持ちます。つまり、コンピューターやスマートフォンといった電子機器内で、演算処理を担う「頭脳」としての役割を担います。これに対し、光半導体は電気と光の両方の性質を扱うことができる点が特徴です。光が持つ高速伝送性や多重化の容易さ、非接触性といった優れた特性を活用することで、通信速度の飛躍的な向上や極めて精密なセンシング機能を実現しているのです。
このように、従来の半導体が電気信号を制御・計算するものである一方、光半導体は光信号の発生・検出・操作を行うことで多様な機能を実現します。この本質的な違いが、両者の構造や材料、活躍する分野の違いを生み出しているのです。
光半導体にはさまざまな種類があり、それぞれに独自の仕組みと機能を備えています。これらの光半導体は用途に応じて使い分けられ、現代技術の重要な基盤を担っているのです。以下の表に、主要な光半導体の種類とその特徴、具体的な応用例をまとめました。
種類 |
仕組み |
特徴 |
活用例 |
発光ダイオード(LED) |
半導体に電圧を加えると、電子と正孔が再結合して光が発生。 |
高いエネルギー効率、低消費電力、長寿命。 |
テレビのバックライト、一般照明、機器の表示部などの幅広い用途。 |
レーザーダイオード(LD) |
LEDの原理に加え、誘導放出によって特定波長の光を増幅して放出。 |
強い指向性と位相のそろったコヒーレント光(レーザー光)を出力。 |
光通信システム、ブルーレイディスク読み書き、精密医療治療など。 |
イメージセンサー |
光電変換素子をマトリクス状に配置した構造で、各画素で光電変換を行う。 |
レンズから入る光を電気信号として捉え、画像情報に変換。 |
デジタルカメラ、スマートフォン、監視カメラなどの撮像装置。 |
フォトダイオード(PD) |
PN接合構造を持ち、光を受けると電子と正孔が生成されて電流が流れる。 |
光の強弱に応じた電流出力と高速応答性。 |
各種光センサー、リモコン受光部、光通信の受信器など。 |
フォトトランジスタ |
フォトダイオードの光電流をトランジスタで増幅する。 |
フォトダイオードより高感度だが、応答速度はやや遅い。 |
高感度光センサー、光スイッチ、暗所での光検出機器など。 |
光変調器 |
外部電気信号により光の強度、位相、偏波などの性質を変化させる。 |
光信号への効率的な情報付加が可能で、高速通信に不可欠。 |
光通信ネットワークの基幹部分、光演算技術の研究開発など。 |
これらの光半導体は、それぞれ異なる原理に基づいて設計されています。「発光」の光半動体素子であるLEDやレーザーダイオード、「受光」の光半動体素子であるフォトダイオードやイメージセンサー、そして「情報操作」の光半動体素子である光変調器など多種多様です。
これらの光半導体を組み合わせることで、高度な光通信システムや精密なセンサーネットワークなど、さまざまな先端技術が実現しています。今後の技術進化によって、これらの光半導体はさらなる高性能化・多機能化が進むといえるでしょう。
光半導体が各分野で注目を集めている背景には、従来の電子デバイスで実現が難しかった高速通信・高感度センシング・低消費電力といった性能を、高次元で実現できる点があります。以下で詳しく解説していきます。
光信号は電気信号と比べて伝送速度が圧倒的に速いという基本特性があります 。現状のデータセンター内通信では電気信号の限界が見え始めていますが、光技術を用いればテラビット/秒を超える高速通信が可能です。
また、高密度波長分割多重(DWDM)技術によって一本の光ファイバーで複数の波長を同時に伝送することで、通信容量を飛躍的に増やせます。このような光ファイバーとの組み合わせによって、インターネット基幹回線やデータセンター間で、大容量かつ低遅延の通信環境が実現するのです。
光信号は電磁ノイズの影響をほとんど受けないため、工場などの電気機器が多く稼働する環境でも安定した通信が可能です。この特性は、産業用ネットワークや医療機器の信号伝送において大きなメリットとなります。
また、光学センサーやライダー(LiDAR)などは非接触で物体の形状や距離を高精度に測定できるため、自動運転車やロボット、さらにはスマートファクトリーにおける工程監視にも活用されています。これらの技術は、人の目や手では見逃してしまうような小さな変化にも素早く気づけるため、作業のムダやトラブルの予防にもつながります。
さらに、光を用いた計測技術は、従来の接触式センサーと比較して部品の摩耗や劣化が少なく、長期間にわたって安定したパフォーマンスを発揮できる点も魅力です。これにより、メンテナンスコストの削減や稼働率の向上といった経済的な利点も期待されています。
LEDやフォトダイオードなどの光デバイスは、従来の光学素子に比べて消費電力が少なく、変換効率も高いため、機器の省エネルギー化につながります。発熱も少なく、低電圧で動作するため、機器全体の消費電力削減や小型化が可能です 。スペースが限られているモバイル機器や、消費電力を抑える必要があるウェアラブルデバイスなどにも容易に組み込めます。
このように、LEDやフォトダイオードといった光半導体デバイスは、製品の設計自由度を高めるだけでなく、新しい使い方やサービスの開発にもつながり、さまざまな分野の可能性を広げるでしょう。
多くの魅力を持つ光半導体ですが、実用化や普及をさらに進めるにあたっては、いくつかの課題を克服しなければなりません。さまざまな製品やサービスに光半導体技術を応用していく際にも、これらの点を十分に考慮する必要があります。
光半導体の製造では、従来のシリコン半導体とは異なる特殊な材料を使用します。発光素子や高速受光素子には、ガリウムヒ素(GaAs)や窒化ガリウム(GaN)、インジウムリン(InP)といった化合物半導体が欠かせません。これらはシリコンよりも高価で、結晶の成長や微細構造の形成に高度な製造設備と技術が必要です。
特に光の波長レベルでの精密加工が求められることが製造コストを上昇させ、デバイス自体の価格を押し上げています。現状では大量生産によるコスト低減も難しく、幅広い普及の障壁となっています。
光半導体システムを構築するにあたっては、光信号をロスなく伝送するための接続技術が重要です。光ファイバーや光導波路と発光・受光素子の位置をマイクロメートル以下の精度で合わせる必要があり、わずかでもずれがあれば信号損失の原因となります。また光の反射や干渉を制御するための光学設計には、専門知識と経験が不可欠です。
さらに、光デバイスとLSIなどの電子デバイスを一つのチップに集積する光電融合技術 は、物理特性の違いから技術的難易度が非常に高く、NTTなどがIOWN構想でこの開発を進めていますが、まだ実用化には至っていません。
高出力のレーザーダイオードや高速応答フォトダイオード などは環境条件に敏感です。高温環境では性能劣化や寿命短縮が起き、光出力特性が変化してしまいます。また、湿度の高い環境では材料劣化の可能性もあるため、厳密な温度・湿度管理が必要になることがあります。
自動車のエンジンルーム内のような高温環境や、屋外の激しい温度変化にさらされる場所、産業機器・宇宙機器など、過酷環境での使用に向けては、環境耐性の高い材料の開発や堅牢性を高めるためのパッケージング技術の向上が求められます。
ここまで光半導体の種類やメリット・デメリットなどを整理してきましたが、果たして将来的に光半導体は普及していくのでしょうか?
結論から言うと、光半導体の将来性については、非常に有望だと予測されています。次世代通信技術や高精度センサー技術、そしてエネルギー効率の高いシステムを支える中核的デバイスとして、今後ますます重要な役割を担うものと考えられます。製造業においても、この技術は生産性向上や新たな事業機会創出のカギとなる可能性が高いでしょう。
光半導体需要拡大の背景には、社会全体の情報流通量の爆発的増加があります 。5Gの普及に加え、将来の6G実用化、そしてIOWN構想のような先進的取り組みにより、データ通信速度と容量は桁違いに増大することが見込まれています。これに伴い、データセンター内の通信量も急増することになり、従来の電気信号による伝送では、速度や消費電力、発熱の面で限界が見え始めているのです。
その点、光信号であれば電気信号に比べて圧倒的に高速かつ大量の情報伝送が可能なため、データセンター内通信やデータセンター間の長距離通信において、光半導体は不可欠な技術だといえます。光半導体の活用によって電力消費を大幅に削減できる点も、環境に配慮したデータセンター運用において大きなメリットです。
また、AIやIoT技術の進化によっても、光半導体の活躍の場が広がっています。AI活用によるリアルタイムデータ分析や、膨大な数のIoTデバイスからのデータ収集・処理には、高速かつ効率的な情報伝送と処理能力が求められます。光半導体はこれらのニーズに応える重要デバイスとして期待されているのです。
市場規模に関しては、世界の光半導体市場は2022年時点で約487億4,000万米ドルと評価され、2023年から2030年にかけて年平均成長率11.8%以上で成長すると予測されています 。特にシリコンフォトニクス市場は2025年の32億7,000万米ドルから2032年には1,583億米ドルへと急成長し、予測期間中の年平均成長率は25.3%に達するとされています 。これらの市場予測は、光半導体技術への需要が今後急速に高まることを示しています。
将来的に光半導体の需要が高まることは確実であり、関連技術や製造プロセスもより洗練されていくと予想されています。このような変化の激しい時代において製造業の競争力を維持・強化するためには、光半導体技術への理解と適応力を備えた体制づくりが不可欠であるといえるでしょう。
光半導体テクノロジーの急速な発展は、製造業で求められる人材のスキルセットにも大きな変化をもたらしています。光学と電子工学の両方の知識、化合物半導体の特性理解、ナノレベルでの精密加工技術など、従来の半導体技術とは異なる専門性が今後ますます重要となるでしょう。
シリコンをベースにした光半導体技術であるシリコンフォトニクス市場が急成長を続けるなか、こうした先端分野の専門人材の確保は製造業全体の大きな課題となっています。特に光回路と電子回路を融合する光電融合技術のような領域では、複数の分野に対して横断的な専門知識を持つ人材が求められ 、即戦力となる経験者の獲得競争は一段と激しさを増しています。自社で育成しようにも、専門人材の育成には時間とコストがかかるため、人手不足が深刻化する製造業界においては、企業単独での対応が困難な場合も少なくありません。
そこで、日研トータルソーシングでは、光半導体時代に対応した専門人材の紹介や、製造業の技術革新を支援する人材ソリューションを提供しています。次世代通信技術やスマートファクトリーを見据え、光技術を軸とした製品開発・製造に対応できる組織づくりを目指す企業様に向けて、適切な人材戦略の立案をサポートしています。派遣人材を含めた中長期的な人材戦略は日研トータルソーシングにお任せください。