

近年、人手不足があらゆる業界で深刻化し、企業の成長を阻む大きな問題となっています。事業の根幹を支える人材の確保は、人事担当者の方にとって喫緊の課題といえるでしょう。実際に、帝国データバンクの調査に よると、2025年4月時点で「正社員が不足している」と感じている企業は51.4%にのぼり、高水準で推移している状況です。
本記事では、人手不足が特に顕著な業界のランキングを紹介し、その背景にある原因を深掘りします。なかでも、すべての産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に不可欠な「IT人材」の不足に焦点を当て、その原因と放置した場合のリスク、そして具体的な対策方法を解説します。人事制度や採用戦略をご検討中の人事担当者の方は、ぜひお役立てください。
この記事でわかること
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帝国データバンクが2025年5月に発表した調査 によると、正社員の人手不足割合が高い上位10業界は以下のとおりです。前年同月のデータと比較することで、各業界の状況の変化が見て取れます。
順位 |
業界 |
2024年4月 |
2025年4月 |
増減 |
1位 |
情報サービス |
71.7% |
69.9% |
-1.8 |
2位 |
メンテナンス・警備・検査 |
62.7% |
69.4% |
+6.7 |
3位 |
建設 |
68.0% |
68.9% |
+0.9 |
4位 |
金融 |
64.2% |
65.3% |
+1.1 |
5位 |
運輸・倉庫 |
63.5% |
64.0% |
+0.5 |
6位 |
リース・賃貸 |
54.9% |
63.7% |
+8.8 |
7位 |
医療・福祉・保健衛生 |
57.7% |
60.0% |
+2.3 |
8位 |
専門サービス |
55.3% |
59.4% |
+4.1 |
9位 |
家電・情報機器小売 |
60.4% |
58.2% |
-2.2 |
10位 |
放送 |
64.7% |
57.1% |
-7.6 |
【引用】「人手不足に対する企業の動向調査(2025年4月)」(帝国データバンク)および過去の調査を基に作成
1位の「情報サービス」業は69.9%と、依然として7割に迫る高水準です。これはITエンジニアやデータサイエンティストといった専門的な職種の需要が、供給を大幅に上回る状況が続いていることを示しています。前年比では1.8ポイント減少していますが、依然として高水準であり、IT人材の採用難が解消されたわけではありません。
2位の「メンテナンス・警備・検査」業は69.4%で、こちらも7割に迫る高水準で人手不足であることがわかります。この業界は、24時間稼働が必要な現場が多く、夜勤や早朝の勤務があるといった労働条件の厳しさが人材確保を困難にしています。また、業界全体で就業者の高齢化が進んでおり、ベテラン人材からの技術継承や退職に伴う人材確保がより一層困難になっているのが実情です。
3位の建設業(68.9%)は、2024 、いわゆる「2024年問題」の直接的な影響を受けています。
具体的には、厚生労働省の規制 によって、建設業では特別条項付き36協定を締結する場合でも年間の時間外労働の上限が最大720時間に定められました。加えて、時間外労働と休日労働の合計についても、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内といった厳しい基準が適用されています。これらの条件自体は、建設業だけでなく一般業種にも共通して適用されるものですが、従来から残業が多いとされる建設業にとっては、一般業種と同様の上限規制が設けられたことが、特に「厳しい基準」と受け止められています。
この規制により、建設業では従来と同じ業務量をこなすためにより多くの人材が必要となり、結果として人手不足がさらに深刻化している状況です。労働時間の制限があるなかで生産性を維持・向上させるため、ICT技術の導入を含むDXによる業務効率化が急務となっています。
いくつかの業界の実情を紐解きましたが、現代の人手不足は単なる人口減少だけでなく、業界特有の事情や法改正、働き方の多様化といった構造的な要因が複雑に絡み合っていることがわかります。
特に注目すべきは、情報サービス業に限らず、建設、運輸、金融、さらには製造業においても、「IT人材の確保」が共通の経営課題として浮上している点です。これには、人手不足解消を目的としたDX推進やサプライチェーンの最適化など、各業界が競争力を維持・向上させるために、ITの活用が不可欠だという理由があります。IT人材の枯渇は、特定の業界の問題ではなく、日本のあらゆる産業の成長を阻む共通の障壁となりつつあるのです。
それでは、なぜ多くの業界でIT人材の確保が困難を極めているのでしょうか。その背景には、IT需要の急増や求職者とのミスマッチ、激化する人材獲得競争など、複数の原因があります。ここでは、IT人材不足を引き起こしている主な要因を4つの側面から解説します。
最大の要因は、社会全体の急速なデジタル化に伴うIT需要の爆発的な増加です。近年では各企業がDXを推進し、AI導入による業務自動化やIoTを活用したデータ収集、クラウド化、セキュリティ強化などに取り組んでいます。この動きは全業界で加速しており、特に、既存の業務プロセスを深く理解し、IT技術を用いて再設計・最適化するような高度な案件が増加しています。
こうした高度な案件は、従来の情報システム部門や外部のITベンダーだけでは対応しきれない場合も多いでしょう。こうした事情からITエンジニアやプロジェクトマネージャーといった専門職に対するニーズが高まっているものの、供給がまったく追いついていない状況です。経済産業省の発表 によると、IT人材の需給ギャップは今後さらに拡大することが予想されています。
ITスキルと業界固有の専門知識を併せ持つ人材が非常に少ないことも、人手不足を深刻化させています。たとえば製造業であれば生産管理やIoTの知識、金融業界では金融工学、運輸業界では物流管理の知見などを持つ人材を企業は求めています。
しかし、高度なITスキルと、こうした特定の業界知識の両方を高いレベルで兼ね備えた人材は極めて少なく、人手不足を深刻化させています。結果として、「業務を理解していないIT担当者」と「ITの可能性を理解していない現場担当者」の間でコミュニケーションがうまくいかず、プロジェクトが停滞するケースが後を絶ちません。加えて、両者の「橋渡し」役となる、ビジネスアナリストやIT企画を担う人材の不足も、多くの企業で課題となっています。
IT人材の需要が供給を大幅に上回るなか、人材の獲得競争は激化の一途をたどっています。特に、GAFAに代表されるような外資系テック企業や国内大手、スタートアップなどが高い賃金や魅力的な福利厚生を提示し、優秀なエンジニアを確保する動きを強めています。
こうした状況は、特に地方の中堅・中小企業にとって深刻な脅威です。また、働き方の多様化が進み、フリーランスとして独立するエンジニアや、より良い労働条件を求めて転職を繰り返すエンジニアも増えており、人材の離職率の上昇も大きな課題となっています。採用市場における企業のブランド力や待遇の差が、そのまま人材獲得力に直結しているといえるでしょう。
需要が急増する一方で、IT人材の供給、つまり教育や育成が追いついていないという構造的な問題も存在します。IT技術は日進月歩で進歩しており、クラウドネイティブな開発手法やAI・機械学習、データサイエンスといった最先端分野では、常に新しい知識やスキルが求められます。とはいえ、企業内の教育体制 をこの変化に対応させるのは難しいでしょう。
特に、アーキテクチャ設計を担えるクラウドエンジニアや、ビジネス課題を解決できるAIエンジニア、データから価値を生み出すデータサイエンティストといった高度専門職は、育成に長い時間とコストがかかります。そのため、中堅以上で即戦力となるこれらのIT人材は常に不足しており、企業間で激しい奪い合いが繰り広げられています。
この深刻なIT人材不足に対して有効な手を打たずに放置してしまった場合、企業はどのような未来に直面するのでしょうか。実は「デジタル化が少し遅れる」といったレベルの問題ではなく、事業の継続性そのものを揺るがしかねない重大なリスクへとつながる可能性があります。ここでは、IT人材不足がもたらす4つの具体的な経営リスクについて解説します。
IT人材が不足すると、まず直面するのがDX推進の停滞や頓挫です。多くの企業が業務効率化や生産性向上、コスト削減を目指してDXに着手していますが、それを完遂する人材がいなければ計画は絵に描いた餅に終わってしまいます。
たとえば、製造現場のスマートファクトリー化を進めようとしても、IoTセンサーから得られる膨大なデータを解析し、生産プロセス改善につなげるデータサイエンティストがいなければ、どのように改善すべきかがわからずに終わってしまうでしょう。結果として、旧態依然とした非効率な作業フローが維持され、DXを達成した競合他社との差は開く一方となり、企業の将来性が危ぶまれます。
IT人材の不在は、企業のセキュリティ体制に致命的な穴を生じさせるという側面もあります。サイバー攻撃の手口は年々高度化・巧妙化しているため、専門知識を持つ人材がいなければ、自社のシステムに潜む脆弱性を見つけ出し、対策を講じることは困難です。万が一、ランサムウェア攻撃や標的型攻撃の被害に遭った場合、事業停止に追い込まれるだけでなく、顧客情報や機密技術といった重要なデータが漏えいする恐れもあります。そうなれば、金銭的な損害はもちろん、企業の社会的信用も失墜し、回復には多大な時間と労力を要するでしょう。
社内でIT人材を育成できない場合、多くは外部委託に頼らざるを得ません。外部委託は一時的な解決策としては有効ですが、長期的に見るとさまざまな課題があります。まず、外部委託コストの増大です。IT人材の市場価値は高騰しており、ベンダーに支払う費用も上昇傾向にあります。
さらに深刻なのは、社内に技術的なノウハウが蓄積されない点です。システムの仕様変更やちょっとした改修であっても自社対応ができず、そのたびに外部に依頼しなければならない状況が生じます。このため、施策を判断してから実行に移すまでのスピードが大きく損なわれ、事業展開の機動力が落ちてしまいます。さらに、ブラックボックス化した「レガシーシステム」を抱え続けることで、最終的に維持管理コストが経営を圧迫する悪循環へとつながる恐れも否めません。
IT人材の不足は、企業の未来を創造する力を奪います。AIやIoT、ビッグデータ分析といった先進技術は、これまでにない新しい製品やサービス、ビジネスモデルを生み出す源泉です。ただし、これらの技術を活用してイノベーションを起こすには、技術について深く理解し、自社の事業と結びつけて新たな価値を構想できる人材が不可欠です。
たとえば、製造業であれば、機械にセンサーを組み込んで稼働状況を遠隔監視し、故障を予知するメンテナンスサービスへの転換などが考えられます。しかし、実行部隊となるIT人材がいなければ、こうしたイノベーションも構想倒れに終わってしまうでしょう。既存事業の維持のみで未来への投資や新たな挑戦ができなければ、企業の成長が完全に止まってしまう可能性すらあります。
深刻化する人手不足は、一朝一夕に解決できる問題ではありません。しかし、今いる人材の能力を最大限に引き出す社内改革と、外部リソースの戦略的な活用を組み合わせることで、解決の糸口が見つかる可能性があります。ここでは、人手不足の解消に向けて企業が取り組むべき4つの具体的な対策方法を解説します。
「人手が足りない」からこそ、「人に頼らない仕組み」を作ることが大切です。まず、既存の業務内容を見直し、誰がやっても同じ成果を出せるよう標準化します。ベテランの勘や経験に頼っている作業をマニュアル化、あるいはデジタル化することで、業務の属人化を防ぎ、品質の安定化を図れます。そのうえで、IoTやAI、RPA(Robotic Process Automation)といったデジタルツールを導入し、単純作業を積極的に自動化しましょう。これにより、少ない人数でも高い生産性を維持することが可能となり、従業員をより付加価値の高い創造的な仕事に従事させることができます。
優秀な人材を自社に惹きつけて定着させるには、魅力的な労働環境と公正な待遇が不可欠です。具体的には、賃上げや給与水準の見直しはもちろん、リモートワークなどの柔軟な働き方を認める人事制度改革が求められます。
また、成果を正当に評価し、昇給や昇進に反映させる透明性の高い評価制度の構築も重要です。働きがいのある職場環境を整備することで、離職率の低下と採用競争力の向上の両方につながるでしょう。
外部からの採用だけに頼らず、社内で人材を育成する視点がこれまで以上に重要です。未経験でもポテンシャルのある若者を採用し、研修によって一人前に育てる仕組みを構築しましょう。また、既存従業員のリスキリング(学び直し)を併せて行うことも有効な一手です。製造現場のベテランにデータ分析スキルを学んでもらうなど、自社の強みを活かした人材育成が今後のカギを握ります。
政府も「マナビDX」 などのデジタル人材育成プラットフォームを提供しており、こうした公的支援を活用することで、効率的な教育体制の構築が可能です。
採用の視野を広げ、ダイバーシティを推進することも人手不足解消のポイントです。経験豊富な高齢者の再雇用、女性の積極登用、さらに外国人労働者の活用も有効でしょう。厚生労働省の施策 でも、多様な人材の職業訓練やデジタルスキル習得支援が推進されています。
また、必要な期間だけ専門スキルを持った人材を確保できる「人材派遣サービス」の活用もおすすめです。派遣会社が採用プロセスを代行するため、採用活動を効率化できるメリットもあります。
人手不足は製造業を含め、多くの業界にとって事業継続を左右する喫緊の経営課題です。特に、DXの推進が企業の競争力を決定づける現代において、その担い手となるIT人材を確保できるかどうかが、生産性向上のカギとなっています。
一方で、技術革新のスピードが加速するなか、業界の専門知識と高度なITスキルを兼ね備えた人材は市場では極めて希少です。適切な人材戦略なくして、こうした専門人材を確保し、競争優位性を高めていくことは困難といえるでしょう。
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