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ものづくり企業研究の専門家・太田信義氏が提言!
日本の製造業は人的資源を柔軟に活用すれば、創造的な製品がスピーディに生み出せる

2020/09/14

今、日本の製造業が抱える最大の問題点は「未来の社会を切り拓くような、創造的なモノが生み出せていないこと」。グローバル競争において、苦戦を強いられているひとつの要因でもあります。その解決方法の一つが、製造業における3つの業務の外部委託をうまく活用することです。それがなぜ重要なのか、専門家にお話を伺いしました。
取材・文/杉山直隆(オフィス解体新書) 写真・図解/LIG

製品設計や製造工程、設備保全……。外部委託できる業務は多種多様

日本の製造業がグローバル競争を勝ち抜くためには、何をすべきなのか? そんな問いに対し、自動車部品メーカー・デンソーの子会社であるデンソーテクノの元社長であり、『自動車産業の技術アウトソーシング戦略』の著者でもある、太田信義氏はこう提唱します。

「『外部委託』をより一層活用することが重要です」

外部委託と一口にいっても、委託する業務内容はさまざまです。製造業でいえば、下記のような業務が該当します。

・設計、開発に関する業務(製品設計、ソフトウェアの開発、生産技術の開発など)
・製造に関する業務(加工や組立、検査、梱包など)
・設備の保全業務(生産設備の設備保全、定期保全など)

「この3つの中で、製品設計や生産技術の開発といった業務を外部の企業に委託することに関しては、『技術アウトソーシング』と呼んでいます。たとえば、自動車業界でいえば、『3次元CADを使った製品の設計』や『設計段階でその製品に問題がないかを調べるCAE解析』、『製品に組み込むソフトウェアの開発』、『工作機械や冶具などの設計』などがそれに当たります」(太田氏)

一方、製造現場におけるオペレーションの核を担う、加工や組立といった業務は、以前から正社員の他に、期間従業員のような期間限定の契約社員、派遣社員などで人材を確保することが一般的でした。これは、景気の浮き沈みや製品の生産量の変動にあわせて、フレキシブルに対応させていく必要があったからです。

また、生産設備の点検や修理といったメンテナンスを主とし、品質と安全を管理するのが保全業務です。

「生産設備が故障しストップすれば、大きな損害を被ることになるため、保全スタッフには高いレベルの技術力が求められます」(太田氏)

近年、一部の派遣会社ではその要求に応えうるスタッフを育成していることから、保全業務を外部委託する企業も増えてきています。

では、なぜ太田氏は冒頭のように、外部委託のさらなる活用が必要だと提唱しているのでしょうか。

「それは、このままでは新しい時代を担う製品を、世界のライバル企業よりもスピーディに生み出せないからです」(太田氏)

現在の日本の製造業が抱える最大の課題について、太田氏は「未来の社会を切り拓くような、創造的なモノを生み出せていないこと」と指摘します。

かつて日本の製造業は、世界をあっと驚かせるイノベーティブな製品を次々と世に送り出してきました。しかし近年は、なかなか創造的な製品を生み出せてはいません。

このような課題を解決するためには、まずは新製品を生み出すための設計・開発に関する人的資源をテコ入れしていく必要があります。

新型コロナの影響が、製造業にもたらす新たな課題とは

一方、製造工程と設備メンテナンスの業務についてはどうでしょう。前述のように、これまでは製造工程では生産計画に合わせたフレキシブルさが、設備メンテナンスでは工場自動化を見据えた高度な人材の確保が重要とされてきました。

近年では、アジアの人件費高騰や、コロナ禍で顕在化した製造拠点の多元化の必要性などを背景とした国内生産回帰の流れから、海外から国内に製造拠点をシフトする企業が、今後ますます増えるであろうという見通しがあります。よって、国内で製造工程と設備メンテナンスを担う人材は、より需要が高まることが予測されます。

「とくに重要度が高まっているのが、設備保全業務を高いレベルで遂行できる人材です。工場のIoT化、自動化が進展することで、設備保全に求められる技術レベルは非常に高くなっています。
電気系や機械系だけでなく、デジタル技術に関する知識や経験を持たないと、高度化された設備をメンテナンスできません。また、壊れてから直すのではなく、壊れる前兆を察知して治す『予知保全』の能力も求められます」(太田氏)

加えて、今後は現在の新型コロナウイルスが製造業に及ぼす影響にも、注視していく必要があります。

「工場の生産ラインでは、一層の無人化が進められると考えられます。新型コロナウイルスの感染拡大前から、生産ラインではロボットの導入が進められてきました。ですが、機械化ができる工程と人が必要な工程で、分けて考えられていたため、人が集中する部分がどうしても生まれていました。この境界線が一気になくなっていくでしょうね」(太田氏)

機械化が進められるほどに、その調整・管理を担う人材は必要となります。また、検品のような工程には、人が集中していました。いわゆる密な状態になってしまうケースも多いということです。

「解決策として、生産ラインの自動化を一層推進することが求められますが、当然これには投資が必要です。そうなると技術力・資金力の有無が問題となってきます」(太田氏)

このような状況の中、限られた経営資源を効率的に分配していくためには、製造工程と設備メンテナンスの外部委託についても、一層その活用方法が問われることとなります。

外部委託を活用しないと、新しいものをスピーディに生み出せない

では、具体的にはどのように外部委託を活用していく必要があるのでしょうか。製造業における世界的な技術革新の流れをみることで、その道筋はみえてくると太田氏は言います。

「製造業のどの分野でも、第4次産業革命によって、IoTやAIなどを用いたモノづくりを進めています。自動車業界でいえば、CASE(Connected=コネクティッド化、Autonomous=自動化・自動運転、Shared=シェアリング・共有、Electric=電動化)というキーワードのもと、世界各国のIT企業や自動車メーカーが次世代の車を生み出そうとしています。

しかし、現状の日本メーカーは先行する欧米企業の後追いをしている状況です。日本企業が新しいモノを生み出すには、カイゼンの連続ではなく、これまでの延長線上にはないモノを創造することが必要です。そのためには、専門分野を深堀りするだけではなく、いくつもの分野にまたがって未来のあるべき姿を考えられる人材を育てることが重要でしょう」(太田氏)

もっとも、せっかく創造的なアイデアが生まれたとしても、それだけでは足りません。アイデアを、できるだけスピーディに製品化することが必要です。そうでなければ、競合他社に追い抜かされてしまいます。

そこで重要なのが、外部委託を活用することです。一部の業務では以前から実践されていたとはいえ、日本の製造業では、研究開発を自社だけで完結させる「自前主義」を貫く傾向が強かった、と太田氏は言います。

「しかし今は、一つの製品あたりで構成される技術領域が格段に広がっています。とくに、モノのIoT化に必要なデジタル技術は、製造業が持っていないことが少なくありません。しかも、近年は技術が進化するスピードがすさまじく速い。これらの技術をすべて自前で開発していたら、とても間に合いません」(太田氏)

その点、欧米や中国の企業では、自前の技術にこだわらず、外部委託を上手に使いこなしています。だから製品開発のスピードが速いのです。

「そうした状況を踏まえると、日本企業も、自分たちで開発するのはコアな技術だけにとどめ、その他の技術は得意な会社に任せることが不可欠です」(太田氏)

グループ外企業への外部委託を巧みに使い分け、コア事業への注力を

では、外部委託をどう活用していくか。その戦略を考える上で必要な視点が、「グループ外の外部委託先を活用すること」です。日本の企業において、とくに技術開発の分野では、グループ子会社への委託が中心でした。

「理由は、情報漏えいがしにくい上、言葉にしづらい、暗黙知が必要な業務でも委託しやすかったからです。たとえば、私が社長職に就いていた当時では、デンソーテクノへ親会社のデンソーが設計業務を委託するような場合、皆がデンソーの設計思想や約束事をわかっているので、イチからあれこれ説明する必要がない。ツーカーで仕事ができました」(太田氏)

しかし、グループ子会社への業務委託にはデメリットもあります。それは、グループ外にある新しい知見を吸収し、活用できないことです。

「その点、独立資本の外部委託先や人材派遣会社にいる人材は、さまざまな現場で仕事をしているため、多様な知見を持っていることが少なくありません。守秘義務がありますから、他社の仕事のやり方をそのまま展開するわけにはいきませんが、豊富な知見をもとに、『御社はこのようなやり方をしたほうが、生産性が上がるのでは?』というような提案ができる人材が多くいるのです」(太田氏)

外部委託というと、「委託された仕事をきちんとこなす」というイメージが先行しますが、近年では、差別化を図るために、業務の提案やソリューションの提供など、一歩先を行くサービスを実施している会社が増えています。

「『この問題を解決してほしい』というざっくりとした依頼に対し、最適な解決策を提示する。イギリスのリカルドやドイツのFEVなどは、そうしたソリューションが提供できる外部委託先の代表格です。日本でも今後はもっと増えていくでしょう」(太田氏)

また、人材派遣会社のなかには、自社で正社員として無期雇用契約をし、研修施設で技術やマネジメントの教育を施すような、高度な人材を育てる企業も出てきています。

「グループ内だけでなく、グループ外の企業もバランス良く使いこなせるようになれば、日本の製造業は非常に良くなる。新しいモノを創造し、スピーディに世に送り出せるようになるでしょう。また個々の企業単位で見ると、外部委託を上手く活用している会社とそうでない会社の差は、今後、大きく開いていくでしょうね」(太田氏)

製造業は「自前主義」を捨てなければいけません。しかし全てを捨てるのではなく、本当にコアな技術部分は「自前主義」を貫きつつ、他社に任せるべき部分をしっかり見極めていく柔軟性が必要になるでしょう。

そして開発だけでなく、製造ラインや保全業務の人材についても、それぞれ上手に外部委託を活用してこそ、自社の人的資源をイノベーティブな開発に向けることができ、競争力を最大化していくことができるのです。

「新製品開発のたびに、製造工程や設備保全に必要な人材を自社で育てるには、当然相応の教育コスト・時間がかかります。この部分を外部委託すれば、予算も立てやすくなり、コストの最適化につながります。

経営陣も人材確保に頭を悩ませることなく、競争力のある製品開発に向けた施策を打ち出しやすくなるでしょう。ひいては、自社の得意な分野に人材を集中投下できる環境が整うのです」(太田氏)

あらゆる工程で外部委託を活用することは、第4次産業革命の時代を勝ち残る上で不可欠といっても過言ではありません。


  • 太田信義(おおた・のぶよし)
    1946年生まれ。1969年東京工業大学工学部卒業、(株)デンソー入社(メータ技術部部長、ボディ機器事業部部長などを歴任)。2002年デンソーテクノ(株)社長(~2009年6月まで)。2012年、名古屋学院大学大学院博士前期課程修了。2015年名古屋学院大学大学院博士後期課程修了、博士(経営学)。2016年には書籍『自動車産業の技術アウトソーシング戦略』(水曜社)を上梓。

日研トータルソーシングでは、製造業の設計・開発から生産設備保全などのアフターサービスにおける人材活用を、トータルでサポートしています。また、充実した教育カリキュラムの導入によって、高い専門スキルを持った人材育成にも力を入れています。

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