

人手不足やグローバル競争の激化により、企業を取り巻く環境は日々変化しています。このような状況下で、事業の進捗に応じて柔軟に人材を確保し、組織の生産性を高めることは、人事担当者にとって大きな悩みといえるでしょう。
そんな中、この悩みの解決策として、正社員以外の雇用形態である「契約社員」や「派遣社員」の受け入れを検討する企業が増えています。
しかし、両者は似ているようで、契約関係から働き方、待遇に至るまでさまざまな違いがあります。それぞれの特徴を正しく理解し、自社の状況に合った人材を活用することこそが課題解決のカギです。
本記事では、契約社員と派遣社員を比較し、企業と労働者それぞれの立場から見たメリット・デメリットを整理します。そのうえで、状況に応じてどちらの雇用形態を採用すべきか、わかりやすく解説します。
この記事でわかること
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契約社員と派遣社員について理解するうえで、最も基本的かつ重要なポイントが「契約関係の違い」です。契約関係の違いは、さまざまな点に影響を及ぼします。そこでここでは、契約社員と派遣社員における契約関係の本質的な違いを、「契約相手」と「契約期間」という二つの視点から詳しく見ていきます。
契約社員と派遣社員では、誰と契約を結び、誰から仕事の指示を受けるのかという基本的な関係性が異なります。
契約社員は、実際に勤務する企業と労働者が雇用契約を結ぶ形態です。これは「直接雇用」と呼ばれる形態であり、契約社員は勤務先企業の一員として、就業先企業の上司から直接指揮命令を受けます。給与の支払いや社会保険の手続きなども、すべて就業先の企業が担うのが特徴です。
一方、派遣社員は人材派遣会社(派遣元)と雇用契約を、派遣会社は就業先企業(派遣先)と労働者派遣契約をそれぞれ締結します。この形態は「間接雇用」と呼ばれ、給与の支払いや雇用契約に関するトラブル、労務管理の相談は派遣会社が窓口となります。一方で、日々の業務指示は派遣先企業から受けるため、指揮命令系統がやや複雑になります。
契約期間のルールは、雇用の安定性に直結する重要なポイントです。契約社員と派遣社員では、法律上の上限や更新の考え方が異なります。
契約社員とは、雇用期間の定めがある「有期労働契約」を結ぶのが一般的です。契約期間の上限は原則として3年ですが、契約更新を繰り返すことで3年以上の就業も可能になります。実際の求人では、6カ月や1年単位で契約を結ぶケースが多いです。
また、労働契約法に定められた無期転換ルールにより、同じ勤務先で有期労働契約を更新し、勤務が通算5年を超えた場合、契約社員は期間の定めのない「無期雇用契約」に切り替えるよう申し込む権利を得ます。
<補足>無期雇用・有期雇用とは? 無期雇用とは、正社員に代表されるように、雇用期間に期限のない働き方を指します。本人の希望があれば、原則として定年まで継続して働くことが可能です。 これに対し、有期雇用は「3カ月」や「1年」など、あらかじめ雇用期間が決められている働き方です。契約社員やアルバイトなどがこの形態に含まれます。 |
派遣社員が同じ派遣先の同じ部署で働ける期間は、派遣法により原則として最長3年と定められています。
ただし、いくつかの例外もあります。たとえば、同一企業内であっても部署を異動すれば、改めて最長3年間の勤務が認められます。また、派遣会社と期間の定めのない「無期雇用契約」を結んでいる場合は、「無期雇用派遣」として3年ルールの適用対象外となり、同じ派遣先で長期にわたって勤務することが可能です。
<補足>正社員と契約社員の違いは? |
契約社員と派遣社員の契約関係の違いは、給与や福利厚生などの具体的な勤務条件・待遇面にも大きく関わります。
人材活用を検討するうえで、人事担当者はコスト面や管理面の違いを正確に理解しておくことが欠かせません。本章では、「給与体系」と「福利厚生」という2点について、契約社員と派遣社員の主な違いを整理し、それぞれの特徴を紹介します。
給与体系や賞与の有無は、働くうえでのモチベーションに直結する重要な要素です。契約社員と派遣社員では、この点においても明確な違いがあります。
契約社員の給料は、勤務先となる企業の給与体系に基づいて支給されます。給与形態は月給制が一般的で、金額は個別の労働契約によって定められます。賞与の有無は企業によって異なりますが、支給される場合でも正社員に比べて少ないケースが多いです。ただし、残業代や深夜手当については、労働基準法に基づき法定どおりに支給されます。
派遣社員の給料は、雇用主である派遣会社から支払われます。給与形態は時給制が一般的です。交通費が別途支給されるかどうかは派遣会社との契約によって異なります。賞与は原則として支給されません。その分、専門性の高い職種では時給が高めに設定される傾向があります。残業代や深夜手当については、契約社員と同様に法定基準に基づき支給されます。
福利厚生は、働きやすさや生活の安定に直結する重要な待遇の一つです。契約社員と派遣社員では、福利厚生を提供する主体が異なります。
契約社員は勤務先の企業と直接雇用契約を結んでいるため、その企業の福利厚生制度を利用できます。社会保険への加入はもちろん、企業によっては社員食堂や社員割引など、独自の社内制度が用意されている場合もあります。
派遣社員には、雇用主である派遣会社の福利厚生制度が適用されます。社会保険への加入も派遣会社で行います。派遣先企業の制度は基本的に利用できません。ただし、就業先によっては休憩室や社員食堂など、一部の施設を使用できる場合もあります。
雇用形態の違いは、日々の働き方だけでなく、中長期的なキャリア形成の機会にも影響を及ぼします。契約社員は、正社員ほどではないものの、比較的安定した職場環境で特定の業務に継続して携わることができるため、専門性を深めやすい傾向があります。一方、派遣社員は、複数の企業や職種を経験する機会を得やすく、柔軟な働き方を希望する人に適しています。
採用後のミスマッチを防ぎ、人材の定着や戦力化を図るためには、どちらの雇用形態が自社の人材戦略や組織風土に適しているかを見極めることが重要です。
契約社員は、契約更新を前提とすることが多く、比較的長期間にわたって同じ職場で安定して働くことができます。特定の部署に腰を据えて業務に取り組むため、専門的なスキルや知識を深めやすいといえるでしょう。
たとえば、特定の製造ラインで専門技術を磨き、その道のプロフェッショナルを目指したり、品質管理の経験を積んでキャリアの幅を広げたりすることが考えられます。また、「正社員登用制度」がある企業も多く、勤務態度や実績が評価されれば、契約満了と同時に正社員に登用されるチャンスもあるため、明確なキャリアアップを目指すことも可能です。
派遣社員の最大の魅力は、勤務期間や勤務時間、仕事内容の希望条件に合わせて、柔軟な働き方を選べる点です。たとえば「3カ月だけ働きたい」「週3日だけ働いてプライベートと両立したい」といった、ライフスタイルを優先した働き方を実現しやすいといえます。さらに、大手企業の最新設備に触れる機会や、専門性の高い中小企業で幅広い業務スキルを習得する機会があるなど、多様な現場に関わることができるのも派遣社員ならではのメリットでしょう。
また、短期やスポット案件の中には時給が高いものもあり、短期間でまとまった収入を得やすいというメリットもあります。ただし、契約終了後に次の勤務先が決まるまで、収入が不安定になるリスクがある点には注意が必要です。
ここまで、契約社員と派遣社員のさまざまな違いについて見てきましたが、「どちらの雇用形態が優れているか」に明確な答えはありません。企業の経営状況や人材戦略、求めるスキル・人物像、さらには労働者自身のキャリア志向によって、適した選択は異なります。
それぞれのメリットとデメリットを整理したうえで、自社の人材ニーズに照らしながら、どちらの雇用形態がより適しているかを具体的に検討していくことが重要です。
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メリット |
デメリット |
企業側 |
・柔軟な労働力を確保できる ・専門的なスキルを獲得している人材を確保することができる ・正社員に比べて人件費を抑えやすい |
・採用・労務管理の手間やコストはすべて自社負担 ・契約満了後の更新や無期転換対応が必要になる場合がある ・解雇や雇止めの際、トラブルになるリスクがある |
労働側 |
・比較的長期で、部署移動なく勤務することができる ・正社員雇用の可能性がある |
・給与・待遇は正社員より低いことが多い ・契約が終了すると、自分で仕事を探す必要がある |
ここからは、契約社員のメリット・デメリットについて、企業側と労働者側それぞれの視点で整理します。
企業側が契約社員を採用するメリットとしては、まず、特定プロジェクトの期間に合わせて人材を確保し、プロジェクトが終了するタイミングで元の人員数に調整できる点が挙げられます。正社員よりも低コストで柔軟な労働力を確保できるのです。
さらに、契約社員としての有期雇用期間は、その人材のスキルや組織への適応度を見極める「試用期間」としての役割も果たします。将来の正社員登用を視野に入れることで、優秀な人材の専門知識やノウハウを社内に蓄積し、長期的な組織強化へとつなげることもできるでしょう。
一方で、契約社員の採用にはいくつかのデメリットもあります。採用活動や給与計算、社会保険手続きといった労務管理に関する業務はすべて自社で対応する必要があるため、一定の手間とコストを伴います。
また、契約更新や無期転換への対応、さらに契約満了後の「雇止め」に関するトラブルが発生する可能性も否定できません。とりわけ、企業側に契約更新を期待させるような言動があった場合には法的な問題に発展するリスクもあるため、契約時には丁寧な説明と誠実な対応が求められます。
労働者側のメリットとしては、派遣社員に比べて比較的長期間、同じ部署で安定して勤務できる点が挙げられます。転勤の心配が少ないうえ、特定の業務に継続して携われるため、専門性を高めやすいといえるでしょう。また、企業によっては正社員登用の機会が設けられているケースもあります。
なお、 によれば、2023年2月から2024年1月までの1年間において、「正社員以外の労働者から正社員への登用実績がある事業所」の割合は50%に達しています。このことからも、一定数の企業が実際に正社員登用の機会を提供している実態が読み取れます。
一方、労働者側のデメリットとしては、給与や賞与といった待遇面が正社員と比べて低く設定される傾向がある点が挙げられます。さらに、契約が更新されなかった場合には、契約満了と同時に自ら次の仕事を探す必要があり、雇用の継続には一定の不安定さが伴います。
以上を踏まえると、契約社員は「人材を育成して組織に定着させたい」「人件費を調整しつつ自社で直接コントロールしたい」企業に向いています。また労働者にとっても、「特定の職場で腰を据えて働きたい」「正社員登用を目指したい」といったキャリア志向を持つ場合に適した働き方です。
▼契約社員が向いているケース 【企業】 ・人材を育成して組織に定着させたい企業 ・人件費を調整しつつ自社で直接コントロールしたい企業
【労働者】 ・特定の職場で腰を据えて働きたい人 ・正社員登用を目指したい人 |
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メリット |
デメリット |
企業側 |
・必要なスキルを持った人材をすぐに確保できる ・採用コストを低く抑えられる ・契約期間が終了したらスムーズに終了できる ・急な増員や欠員対応がしやすい |
・人材を直接選べない ・育成や評価がしにくい ・時給単価は契約社員より高くなることが多い ・契約のたびに基本的な業務指導・レクチャーを行う必要がある |
労働側 |
・自分の条件に合う仕事を紹介してもらえる ・勤務時間や給与など、希望に合う働き方ができる ・いろいろな職場で経験を積める ・派遣会社の研修や資格取得支援でスキルアップできる |
・業務内容が限定されることが多い ・給与に仕事の評価が反映されづらい ・キャリアアップや昇進のチャンスが限定的である |
続いては、派遣社員のメリット・デメリットについて、企業側と労働者側それぞれの視点から整理します。
企業側にとって、派遣社員の活用は、採用コストや労務管理の負担を大幅に削減できる点が大きなメリットです。募集から人選までを派遣会社に任せられるため、必要なスキルを持つ人材を手間をかけずに確保でき、急な増員や欠員にも柔軟に対応できます。
たとえば、繁忙期のみの人員確保や、社員の産休・育休期間中の代替要員、新しい生産ラインの立ち上げといった期間限定のプロジェクトにも、必要なスキルを持つ人材を迅速に投入できます。さらに、契約満了時にはスムーズに契約を終了できるため、事業の状況に応じた人員調整がしやすいこともメリットです。社会保険の手続きや給料計算も派遣会社が担うため、契約社員に比べ、人事部門の管理負担を軽減できる点も魅力といえるでしょう。
一方で、派遣会社との契約であるため、派遣されてくる人材を企業側が直接選考できないというデメリットがあります。さらに、契約のたびに改めての業務指導が必要となり、直接の雇用関係がないことから長期的な育成や人事評価もしにくいのが実情です。加えて、契約社員に比べて時給単価が高くなる傾向も見られます。
労働者側のメリットは、派遣会社に登録することで、勤務時間や給与など、自身の希望条件に合う仕事を紹介してもらえる点です。大手企業やさまざまな業界で経験を積むチャンスがあり、派遣会社が提供する研修や資格取得支援制度を活用してスキルアップすることもできます。
一方、労働者側のデメリットとして、契約で定められた仕事内容や業務範囲が限定的であることが多く、責任のある仕事を任される機会は限られる傾向がある点が挙げられます。また、給料は時給制で固定されているため、たとえ高い成果を上げても、それが直接的な評価や昇給に結びつきにくいのが実情です。昇給の交渉は雇用主である派遣元に行う必要がありますが、派遣先での貢献度が見えにくいことから、キャリアアップや昇進のチャンスは非常に限られています。
以上を踏まえると、派遣社員は「必要な時期にすぐ人材を確保したい」「採用コストや管理負担を抑えたい」企業に向いています。
また労働者にとっても、「柔軟な働き方を選びたい」「さまざまな職場で経験を積みたい」と考える場合に適した雇用形態といえるでしょう。
▼派遣が向いているケース 【企業】 ・必要な時期にすぐ人材を確保したい企業 ・採用コストや管理負担を抑えたい企業
【労働者】 ・柔軟な働き方を選びたい人 ・さまざまな職場で経験を積みたい人
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本記事では、契約社員と派遣社員の違いについて、契約関係から待遇、働き方、さらに双方のメリット・デメリットまで、多角的に比較・解説しました。契約社員と派遣社員は、企業と労働者が直接契約を結ぶ「直接雇用」か、派遣会社を介する「間接雇用」かという点で根本的に異なります。この差が、指揮命令系統や契約期間、待遇など、多くの側面に影響を及ぼすことがおわかりいただけたはずです。
人手不足が深刻化している現状においては、どの雇用形態を選択するかは、企業の生産性や将来の組織づくりを左右する重要な経営判断となります。それぞれの特徴を正しく把握し、自社の課題や目的に合わせて最適な人材活用を検討することが欠かせません。
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