

原材料価格の高騰や、急務とされている労働生産性の向上など、製造業が直面する課題にはさまざまな項目が指摘されていますが、なかでも最優先事項として共有されているものは、「人材不足対策」にほかなりません。
労働力人口の減少などマクロ要因も向かい風となり、多くの企業は苦境に立たされています。
そこで着目すべきは、既存従業員に向けた「人材定着率」の改善です。
本記事では、製造業従事者および製造業への就業意欲を有する人材を対象に実施したアンケートに基づき、従業員が有する退職・転職意向や、現在の仕事に対して抱えている不満、そして講じるべき具体的なアクションについて考察していきます。
深刻化の一途をたどっている製造業の人手不足。それは現場レベルの肌感覚として浸透しているにとどまらず、「2022年版ものづくり白書」においても明確なデータをもって論及されている喫緊の課題です。
上のグラフは、2002年を起点に約20年間の推移を追った、製造業従事者の就業動向を示すものです。以下にその要点をまとめます。
なお、これは国内全体の懸念事項として各所で指摘されている、「少子高齢化に伴う労働力人口の減少」だけに起因する現象ではありません。全産業に占める製造業の就業者割合に目を向けてみても、3.4ポイントの低下が認められるためです。
全体の労働力のパイが縮小するなか、それを上回るペースで製造業の人手不足は進行し、同時に高齢化率も上昇している事実が読み取れます。
こうした現状に直面し、製造業各企業はどのような対策を講じているのでしょうか。2018年版ものづくり白書では、人材確保に苦慮する企業の取り組みを確認できます。
ここで着目すべきは、「採用強化」に続いて重視されている「人材の継続確保」の視点です。
製造業の構造的特徴のひとつに、膨大な数の中小企業がしのぎを削る裾野の広さがあります。製造業における企業数を規模別にセグメントすると、大企業は全体の約0.5%に過ぎず、その割合の大半は中小企業によって占められているのです。
しかし、採用力においては、知名度や体力に勝る大手企業に対して、中小企業はどうしても不利を強いられてしまいがちです。だからこそ、特に中小企業においては既存従業員の継続確保、人材定着率の改善に注力しなくてはいけません。
人材定着率の改善が強く求められているのは、従業員の退職・転職に対する考え方をみても明らかです。
実際に従業員は、「いまの会社や工場で働き続けたい」と考えているのでしょうか。意向を調査すべく、製造業従事者および製造業への就職・転職意欲を有する人材400名を対象にアンケートを実施しました。
「いまの会社や工場で働き続けたいとは思わない」と、少なからず退職意向を有する従業員は、全体のほぼ半数に迫ります。
なお、退職を検討しているのは、製造業の勤務経験が比較的浅い層や若手人材だけにとどまりません。10年以上の勤務歴を有するベテラン社員においても、退職意向は少なくない割合で観測されています。
従業員の勤務歴や年代別に応じたデータについては、詳細情報をご覧ください。
では、従業員はなぜ定着しないのでしょうか? 人材定着率の改善を図るためには、退職に至る原因を特定すべく、従業員が抱く「仕事に満足している点」そして「不満を覚える点」に目を向けなければいけません。
上記のアンケート概要に則り、従業員が現在の仕事に対して抱えている「不満」の声を調査しました。
現在の仕事に対する不満を尋ねた質問(※複数選択可)にて、もっとも多くの声が集まったのは、やはり「給与水準が低い・上がらない」の項目でした。これは物価の上昇や、社会保障等を維持するために現役世代の負担率が高まっている外部要因なども加味すると、妥当ともいえる結果でしょう。
この調査のポイントは、次点に「スキルアップを望めない・将来への不安を拭えない」が選ばれた点にあります。
一方、「休暇」「福利厚生」など条件面や、「業務内容」への興味関心など、多くの人材が選択すると考えられていた項目は相対的にそれほど重視されておらず、それらの項目を複数の選択肢が上回る、少々意外な結果が示されました。
アンケートでは、上記の質問と同時に、回答を選択した理由も合わせて取得しています。「スキルアップ環境」に不満を抱いている人材のコメントに目を向けると、以下のような不安や悩みが顕在化しています。
「スキルアップ環境」に不満を抱いている主要因として多くの人材が表明したのは、スキルアップが望めない環境に身を置き続けることに起因する焦燥感や、未来への不安に関連するコメントでした。その一部を抜粋し紹介します。
ロボットやAIなど、イノベーションが加速する時勢に向き合うと、スキルアップが望めない環境に身を置き続けることが「このままでは取り残されてしまう」「市場価値を高められない」と、焦燥感を掻き立てられる要因となっていることがわかります。
なお、こうした不満が高まっているのは30代以下の若手などに限定されるものではありません。ベテラン社員においても同様に見られる傾向であり、企業へのエンゲージメントの低下を招くリスクも大いに懸念されます。
業務時間外における自己研磨で得られるスキルアップは、特に製造業においては限定的な領域になりがちです。結果、スキルアップへの理解が乏しい、企業文化に対する不満の声も多く寄せられています。
向上心やチャレンジ精神を企業に理解してもらえないままでは、モチベーションの深刻な低下を招きます。退職意向も強まり、離反の直接的な要因にもなりえるでしょう。
前述したとおり、現在の仕事に対して従業員が抱いている最大の不満は給与です。「スキルアップを望めない」「給与水準が低い・上がらない」の間に成立する、負の相関関係に悩むコメントも目立ちます。
このように、「給与アップのためにスキルアップしたい」「しかしいまの職場では実現できない」のジレンマは極めて深刻です。この葛藤こそが、将来への焦燥感や企業文化への不満を醸成しているとも整理できるでしょう。
企業が従業員のスキルアップを支援する姿勢は、人材定着率の向上を図るうえで欠かせない取り組みに数えられることは明らかです。
最優先の取り組みとして認識し、労働環境や勤務時間など、従業員が不満を覚えているその他項目への対策としてもスキルアップ支援が機能するよう、シナジーを生み出せる施策が求められます。
</>従業員が抱えている「不満」の声を調査した、詳細情報を提供いたします。 人材定着率の向上を図る取り組みにぜひお役立てください。
続いて、従業員が抱いている職場への満足度にも目を向けてみましょう。
立地の良さと並んで、もっとも多く選ばれた選択肢は「職場の雰囲気の良さ」でした。なお、職場の良好な雰囲気や円滑な人間関係は、求職者が就業先を選ぶ最重要ポイントとしても評価されています。
【関連記事】製造業の就労ニーズ白書|求職者が就職・転職先を選ぶポイントとは
一方、多くの従業員から不満の声が上がっていた「給与」「スキルアップ環境」については、この満足度調査においてもやはり低調です。
「給与アップのためにスキルアップしたい」「しかしいまの職場では実現できない」のジレンマに多くの従業員が悩まされていることは、満足度の観点からも立証されています。
「給与アップのためにスキルアップしたい」「しかしいまの職場では実現できない」のジレンマを解消するために、人材育成の重要性は自ずと高まります。
しかしその一方で現場に目を向けてみると、能力開発や人材育成を容易には達成できない現状も報告されています。
慢性的な人材不足や従業員の高齢化などの影響もあり、企業は「指導人材」「育成時間」「育成コスト」とあらゆるリソース不足に直面していることがわかります。
また、「人材を育成しても辞めてしまう」「鍛えがいのある人材が集まらない」といった問題点も言及されており、育成の実効性自体にも疑問符がつく状況が示唆されています。
製造業の就職・転職先を選ぶ決め手となるポイントは、
下記の記事でくわしくご紹介しています。
製造業の人手不足が深刻化していることは論をまちません。特に中小企業においては、既存従業員の継続確保、人材定着率の改善への注力が急がれます。
これらの観点から従業員の意識構造を明らかにしてきましたが、実際に人材定着率の改善や人材育成を成功させるために、どのような施策を講じるべきなのでしょうか?
施策のヒントは、以下のような方針から見出せます。
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