

日本GLPが目指す「止めない物流」とは、どのようなものなのか。同社の「止めない物流」への取り組みについて全三回に渡り紹介する特集企画。
第三回目となる今回は、日本GLP 常務執行役員 営業開発部管掌 松脇 隆氏と
日研トータルソーシング 執行役員 折原 浩之氏による特別対談をお届けいたします。
今、物流のありかたは、IT技術の発展やEC市場の急成長などによって大きく変わろうとしています。物流の効率化や高付加価値化が求められる中で、業界を支える物流不動産開発企業や人材派遣企業は、どんな戦略をもってどんな価値を提供しようとしているのでしょうか。
「持続可能な物流」を実現していくうえで求められる物流施設とは、そこで必要とされる人材とは、そしてそうした人材の育成・定着に向けた取り組みとは──。テナント同士の共創を促す物流施設「ALFALINK」を手がける日本GLPの松脇氏と、数々の物流施設に技術者を派遣している日研トータルソーシングの折原氏が語り合いました。
取材・文=辻村洋子 写真/畠中彩
現在、物流は重要な社会インフラのひとつになっています。いざというときにも荷の流れを止めないよう、それぞれのお立場からどんな取り組みをされていますか?
松脇
日本GLPでは、従来から免震構造や非常用電源を備えた物流施設を開発し続けてきました。2011年の東日本大震災以降はその取り組みをさらに強化し、現在では免震構造を備えた施設数は業界随一となっています。
物流施設の使命は、施設内の荷と働く人を守ること。万が一災害などがあっても荷がきちんと発送されるよう、社会インフラとしての「止めない物流」が実現できるよう、力を尽くしています。
折原
日研トータルソーシングは、二つの面から「止めない物流」への貢献に取り組んでいます。一つは「人」であり、物流施設内で働く方々にできる限り長く勤めていただけるよう、労働環境ややりがいなどの向上に努めています。もう一つは「設備」です。施設内の設備をいかにして止めないようにするか。これには、設備保全やメンテナンスのスキルを持った技術者や、近年の自動化・ロボット化に対応できる技術者などが必要になってきます。そうした人材を育成するため、各種技能を養成する研修施設「テクノセンター」を全国に展開しています。
近年、物流業界やそのニーズはどう変化しているのでしょうか。
松脇
コロナ禍の影響もあってEC市場が大きな伸びを見せており、私たちもその成長を支えているという自負を持って施設開発に取り組んでいます。
当社のテナントは、以前はほとんどが物流会社様でしたが、今はEC事業者様が3割を占める状況になっています。EC市場は今後もさらなる成長が期待できるため、当社としても対応に力を入れていく方針です。
折原
私は、人材に求められる「質」が変わったと実感しています。以前はピッキングやフォークリフトの操作など、荷の入出庫に関わるスキルを求められることが多かったのですが、近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)や設備メンテナンスのスキルを持った人材へのニーズが高まっています。派遣期間も、当社においては期間限定から無期や長期へと変わってきています。
業界の変化に伴い、人材面ではどのような課題が生まれているのでしょうか。
松脇
近年は少子高齢化によって人材確保が難しくなり、国による労働時間削減の方針もあって、物流の現場は機械化や自動化に迫られています。これに伴い、同時に機材の保全やメンテナンスのスキルを持った技術者も必要になってきています。しかし、そうした技術者の数は限られており、確保に悩むテナント企業様が少なくありません。
折原
物流の現場は慢性的な人手不足が続いていて、高度スキルを持った技術者だけでなく、梱包や運搬などの一般ワーカーも足りない状況にあります。これは、物流施設に対して「狭くて暗くて閉鎖的」といったよくないイメージを持ったままの人も多いからではないでしょうか。しかし、御社の物流施設「ALFALINK」はそのイメージを覆すものだと思いました。きれいで明るく、開放感にあふれている。人が働きたくなる環境づくりに取り組んでいらっしゃいますね。
松脇
弊社はテナント企業の社員、パートの方々に気持ちよく、やりがいを持って働いていただけるよう努めています。当社が展開する「ALFALINK」には、カフェやコンビニ、託児所のほか、フットサルコートを備えた施設もあります。「ALFALINK」は、そこで働く方々はもちろん、そのお子さんや地域の方々にも親しまれる場でありたい。地域住民の皆さんに喜んでいただける施設をつくってこそ、初めて「ここで働きたい」という方が集まってきてくれるのではと考えています。
折原
働く方々に対して、免震構造などで安全を守り、さらに納得して長く働ける環境を整えていると。
今は労働者のほうが働く場を選ぶ時代ですから、私たちも物流施設で働くことのイメージ向上に努めていかなければなりません。当社も、元従業員にeスポーツ(ビデオゲームを使った対戦スポーツ競技)のプロ選手がいまして、現在もスポンサー契約などを通して支援しています。社内にeスポーツの部活動も発足し、従業員同士が横のつながりをつくる機会になっています。こうした取り組みを通して、若者に「物流業界で働くって楽しそう」と思ってもらえたらうれしいですね。
人手不足という課題に対して、業界のイメージ向上にまで取り組まれているのですね。人材育成はどこでどのように行っているのでしょうか。
松脇
日研トータルソーシング様には、「GLP ALFALINK相模原」内に研修施設「関東テクノセンター」を開設していただきました。ここで優秀な人材をたくさん育成していただけたら、当社としても非常にうれしく思います。
折原
関東テクノセンターにはセンター長と講師が常駐しており、ここに年間7回ほど、1回につき約20名の研修生を送っています。研修生は、こうした集合教育を受けた後に全国のお客様のところへ派遣されます。「GLP ALFALINK相模原」内で研修を受けることで、物流施設で働くことの魅力を知り、そのモチベーションを持って他の現場で活躍する──。そんな好循環を生み出していきたいですね。
松脇
物流の現場は機械化・自動化を進めていますが、やはり機械だけでは現場を動かすことはできません。しっかりした技術を持った人がいて、初めてスムーズに動くようになります。私たちもその部分に積極的に関わっていきたい。御社と議論しながら、よりよい現場をつくっていきたいと考えています。
人材確保のためには、採用を増やす、離職を防ぐといった取り組みも必要かと思います。
折原
2022/1現在の、全国的な有効求人倍率は1.2倍ですが、物流業界に限ると2倍強、その中でメンテナンス人材は4倍近くにものぼっています。圧倒的な売り手市場なのにも関わらず成り手が少なく、大きなギャップが生じているのです。当社は「人が宝」の会社ですから、この数少ない人財をできる限り安心・安全な場へ派遣していきたい。同時に、人財そのものの増加を図るため、ノンスキルからの育成にも力を入れています。例えば新卒採用では、2022年度は1,100名を採用しました。来年度は1,500名の採用を目指しています。
松脇
御社の取り組みは、当社としても心強く感じます。ただ、働き始める人が増えても、その後の離職率という課題がありますね。「ALFALINK」の設備を充実させている理由のひとつには、離職を防ぎたいという思いもあります。今後も物流施設としてできることはすべて行っていくつもりです。
折原
当社も離職を防ぐため、さまざまな取り組みを行っています。一つは事前教育で、派遣先のお客様のニーズと実際に働く人の意識に食い違いが起きないよう、研修などにはかなり力を入れています。もう一つは評価制度です。当社における派遣の主流は無期または長期なので、本人がやりがいを持ち続けられるよう、働きぶりやスキルの向上に待遇面でしっかり応えていくということですね。これが、持続可能な物流につながっていくのではと考えています。
マネジメント層の育成についてはいかがですか? また、日本GLPではどんな人材を育成しているのでしょうか。
折原
例えばお客様のところに300名を派遣するようなケースでは、リーダーとして数十人の管理職が必要になります。当社ではそうした組織の体系化もご提案しているので、管理職の育成や個々の適正に応じた人員配置は非常に重要だと思っています。当社には、大きく分けて一般ワーカー職、マネジメント職、本社職員の3つの職域がありますが、従業員はこの3つの間で異動の希望が出せるほか、それぞれの育成プログラムも用意しています。
松脇
当社では、テナント企業様の課題解決をお手伝いするためのサービスとして「GLPコンシェルジュ」をスタートさせました。推進メンバーだけでなく、営業担当者全員がコンシェルジュとなり、保管スペースの過不足や人手の確保、ラストワンマイル輸送網の強化など、物流に関するさまざまなお悩みにワンストップでお応えできる体制づくりを進めています。営業担当者1人ひとりが「物流不動産のプロ」としてお客様のお役に立てるよう、新人には積極的に経験を積ませたり、ベテランの知見を共有したりしながら育成に努めています。
日本GLPが日研トータルソーシングに期待することは何でしょうか。
松脇
お客様が人材について課題や悩みを抱えていたら、GLPコンシェルジュは解決策を一生懸命考えるわけですが、その際に人材のプロとして相談に乗っていただけるのがありがたいですね。GLPコンシェルジュには、「人手が必要だが自分たちでは確保できない」という相談も多々寄せられています。こうしたとき、私たちは日研トータルソーシング様をはじめとするパートナー企業様の力を借りてニーズにお応えしています。
折原
日本の労働者数は減少の一途にあります。労働力における需要と供給のバランスはすでに崩れつつあり、その中でいかに人材を確保していくか、当社も模索しているところです。
従来は「深く広く」を目指して人材確保に努めてきましたが、今後はこれを「選択と集中」にシフトしていく必要性があると考えています。長期雇用していただける場や人財を選択し、集中的に配属・育成していく──。短期かつ大量の人材確保を得意とする企業がある一方で、私たちはこうした方向性で物流業界に貢献していきたいと思っています。
松脇
最近は人材コストが高騰しており、国も労働者への賃金を手厚くする方針を打ち出しています。戦略的な人材投入が必要ですね。
折原
一般ワーカーの賃金がスキルワーカーに近づきつつあり、人材派遣事業者としても厳しい判断が求められるようになっています。また、国内の生産労働人口減少における人材コストの高騰は今後更に厳しいものになります。
そのような環境下、各企業様と共存共栄するために当社はD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進しており、シニア人材の雇用促進、女性活躍の推進、中でも海外人材においては在留資格による就労制限の有無、専門性に基づいた雇用を促進しています。
一方で、企業様が海外人材を直接雇用するケースも急増しており、日系企業が多く進出するベトナム・タイにおいて当社海外拠点による帰国後の就労先を提供する支援も進めているところです。
将来的には当社海外拠点にて研修を受けた外国人スタッフが日本で活躍し帰国後には母国にて活躍する、そんな姿に寄り添っていければと環境整備を進めています。
日本GLPの今後の展開についてお聞かせください。
松脇
テナント企業様からいただいた声をすべて開発に生かしながら、引き続き新たな価値を持つ物流施設を開発していきます。そして、求められる施設は時代によって変わっていくもの。その変化に応じて柔軟に、かつ先陣を切って新たな価値の創出に挑戦していきます。
その一例として、当社では地域との共生を重視しています。「ALFALINK」をはじめとする物流施設は、地域に親しまれる存在にするべく、スポーツイベントや社会科見学などさまざまな企画を開催しているほか、27棟の物流施設において免震構造を備えており、そのいくつかは災害時における地域住民の避難所として機能します。現在、20近くの市町村と防災協定を締結しており、今後も拡大していく予定です。
折原
非常に先進的な取り組みですね。単なる倉庫の役割を超えて、地域の方々に貢献できる施設づくりを目指されているのだなと感じます。
松脇
「地域に愛され続けなければ我々の存在意義はない」という想いで開発しています。「GLP ALFALINK相模原」は計4棟、延床面積20万坪とかなり大規模な施設ですが、これも「狭くて暗くて閉鎖的」という従来の倉庫のイメージを打破したかったからです。ただ、空間を広くするとそれだけ人手が必要になってくるので、できる限りたくさんの方々に働いてもらえるよう、きれいで休憩施設なども充実した施設づくりを心がけました。
折原
私たちが入居させていただいている「GLP ALFALINK相模原」も、とてもきれいですね。従来の倉庫とは一線を画したつくりになっています。もし私が「ALFALINK」で働いていたら、この環境を自分の子に見せたいと思うでしょう。「お父さんはここで働いているんだよ」と自慢したくなります。
松脇
実際、それを理由に入居してくださったテナント様もいらっしゃいます(笑)。当初は「こんな大規模な施設をつくってテナントが埋まるのだろうか」という不安もありましたが、現在、竣工済み物件はほぼ100%埋まっています。働きやすい環境づくりや、「GLPコンシェルジュ」などテナント企業様同士の共創を後押しする仕組みが評価された結果だと自負しています。
広さも強みになっており、最近は自動運転車やドローンの実証実験の場としてもご活用いただいていますね。こうした事例も、テナント企業様がイノベーションを図る上で刺激になっているのではと思います。
日研トータルソーシングの今後の展開についてお聞かせください。
折原
人材ビジネスの2大顧客は、派遣先の企業様と応募して働いてくださる方々です。私たちが目指すのは、この2大顧客から選ばれる会社であり続けること。
現在、当社の売り上げの約半数は製造派遣や製造請負で、3割が技術派遣ですが、今後は技術派遣を増やして、雇用形式も短期から長期へとシフトしていく方針です。人手不足は急速に進んでおり、すでに待ったなしの状態。働き方改革やDX化などによる変化も激しく、物流業界の労働市場は今まさに転換期と言えるでしょう。私たちも待ったなしで取り組んでいかなければ。「育てる派遣。」を合言葉に、人材確保や人材育成に力を注いでいきます。
2社に共通するビジョンや目標などありましたらお聞かせください。
折原
「GLP ALFALINK相模原」にあります当社の関東テクノセンターは、今はまだ研修施設という位置づけですが、将来的には入居企業様の機材トラブルを解決できる技術者を常駐させたいと思っています。何かあればすぐに技術者が駆けつける、「ゼロ距離メンテ」を実現したいですね。日本GLPさんとはすでにこのビジョンを共有していますので、実現目指してともに進んでいければと思っています。
松脇
「ゼロ距離メンテ」は2社共通のビジョンであり、実現すれば必ずテナント企業様のお役に立てるものと思っています。今後も互いの強みを生かして、こうした新しいビジネスをどんどん創り出していきたいですね。
折原
物流施設を「共創のコミュニティ」にしていこうという御社のビジョンには、私たちも大いに共感しています。GLPコンシェルジュに寄せられる悩みの中には、マテハン機器の保守保全やロボットを購入した後のメンテナンスに関するものも多いと聞いていますので、まずはそこから実績をつくっていけたらと思います。
松脇
一緒に物流業界を盛り上げていきましょう。そもそも日本の物流現場は、海外に比べるとかなり洗練されています。私は海外の現場を見る機会が多いのですが、日本はピッキングがきちんとしていて誤配も非常に少ない。洗練された環境と正確性を誇っているわけですから、物流業界の方々はもっとアピールしていいのではと思っています。当社としてもその後押しをするため、現場をできる限りオープンにして、世間に見せていこうと考えています。若い世代の方々にも、例えば「ALFALINK」には御社の研修施設があって、ここでスキルを磨けるのだとアピールしていきたいですね。
最後に、物流業界で働く方々に応援メッセージをお願いいたします。
松脇
機械化や自動化が進んでも、物流の現場はやはり「人」がいないと回りません。そして人が働く場を選ぶとき、どんな環境か、いかに働きやすいかといったことはとても大事な要素になります。私たちの使命は、物流施設で働く方々にできる限りよい環境を提供すること。そこで充実した時間を過ごしていただくことで、人生をより豊かにするお手伝いができればと思っています。日本GLPの施設で働くすべての方々、そして物流業界の応援団として、今後も力を尽くしていきます。
折原
私たちは、多くの方々に物流業界で働くことの意義を伝えていきたいと思っています。物流は社会に欠かせないインフラであり、荷主や消費者の幸福にも関わる仕事です。社会に貢献する仕事、人の役に立つ仕事だと知ってもらうことで、誇りを持って働く人を少しでも増やしていきたいですね。今はしっかりとした育成の仕組みがあり、初めは知識や経験がなくても、意欲を持って取り組んでいけばスキルある人材になることができます。私たちと一緒に成長していきましょう。
日研トータルソーシングでは、人材活用をトータルでサポートしています。充実した教育カリキュラムの導入によって、高い専門スキルを持った人材育成にも力を入れており、保全研修の外販実績や派遣サービス、請負サービスの実績も豊富にございます。
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