

2021年7月、環境省が2030年度の太陽光発電の導入目標を約2,000万kW分積み増す方針を打ち出すことが報道されました。これは原子力発電所20基分の電力に相当し、再生可能エネルギーの普及拡大を加速していくことが目的です。
脱炭素社会の実現に向けて、太陽光発電があらためて注目されているいま、次世代太陽電池として期待されているのがペロブスカイト太陽電池です。
これまでも新しい太陽電池はいくつか登場したものの、シリコン太陽電池にとって代わることはありませんでした。しかし、従来のシリコン太陽電池が抱えるコストの問題や設置場所の制限といった課題を解決するものとして、ペロブスカイト太陽電池への期待値は大いに高まっています。
ペロブスカイト太陽電池はシートに印刷して折り曲げることができるなど、いままでの常識を大きく覆す太陽電池です。
ペロブスカイト太陽電池とは、太陽の光エネルギーを電気に変換する結晶構造を持つ、ペロブスカイトという材料を用いた「ペロブスカイト半導体」を使った太陽電池です。
ペロブスカイトはロシアのウラル山脈で発見された鉱物ですが、同様の結晶構造を持つ素材を一般的な化学物質を合成してつくることが可能です。理論上では、ペロブスカイトの結晶構造をつくる化学物質の組み合わせや構成比は、600種類以上あります。
なお、ペロブスカイト型太陽電池の発明者は桐蔭横浜大学の宮坂力教授で、国内特許も有します。ペロブスカイト型太陽電池は、太陽電池の材料として2009年に日本の研究開発によって生まれたものなのです。
太陽電池は半導体の材料による種類があり、現在、主流となっているシリコン太陽電池は約95%のシェアを占めているとされています。
しかし、シリコン太陽電池は重く、設置場所に制限があります。たとえば、ビルの側面や耐荷重の小さい屋根では、日当たりがよくてもシリコン太陽電池を設置することはできません。また、製造工程で高温となる工程があるため、電力消費量が大きいことも課題でした。
これに対して、ペロブスカイト太陽電池は、シートに印刷するなど塗布によって簡単に製造可能です。折り曲げられる柔軟性のある形状にすることや軽量化も実現でき、設置場所もフレキシブルに対応できます。さらに、シリコン太陽電池よりも価格が安くなるとされていることからも、次世代太陽電池として期待されているのです。
一般的な太陽電池に共通した仕組みとして、太陽の光エネルギーを受けると、半導体の材料の電子のエネルギーが高まり、導電性の電極に流れ込んで電流が発生します。この半導体の材料にシリコンを使ったのがシリコン太陽電池であり、ペロブスカイト太陽電池は鉛のペロブスカイト結晶構造に太陽の光エネルギーをあてる仕組みです。
ペロブスカイト太陽電池は、太陽の光エネルギーから電気への変換効率が飛躍的に向上してきています。シリコン太陽電池と同程度に迫る変換効率を実現したとする研究結果も打ち出されているほど、研究開発が進んでいるのです。
ペロブスカイト太陽電池は、次に挙げる利点やメリットから、シリコン太陽電池に代わる次世代太陽電池として注目されています。
現在普及しているシリコン太陽電池は、価格の高さが今後の普及のネックとなっています。
シリコンを用いるには多くの製造工程が必要であり、高温プロセスもあるため、電力消費量も大きくなります。一方、ペロブスカイトは溶解処理による簡素化された製造工程で済むため、コストの高い生産設備を必要とせず、低温プロセスのみで製造できるため、電気消費量も抑えられます。
また、ペロブスカイトを半導体の材料に薄膜として用いるため、シリコンを使う場合と比較して20分の1程度の材料で済むとされています。
こうした点から、ペロブスカイト電池の製造コストは、シリコン太陽電池の5分の1から3分の1程度になることが見込まれています。
ペロブスカイトは一般的な化学物質から合成できる材料であるため、レアメタルを必要としません。価格面での優位性があるほか、原材料の供給を巡る問題が起こりにくいこともメリットです。
同じくレアメタルフリーを実現するナトリウムイオン電池と同様に、 ペロブスカイト太陽電池はエコかつ高コストパフォーマンスである観点からも注目されています。
シリコン太陽電池は薄くすると、太陽の光エネルギーの吸収効率が低下してしまいます。そのため薄くすることが困難であり、厚みがあって折ることもできないため、耐荷重の問題からも設置場所が制限されていました。
一方、ペロブスカイト太陽電池は太陽の光エネルギーの吸収係数が大きく、薄くしても高い変換効率を維持できます。特別な加工も必要とせず、印刷と同様の付加的成膜技術で製造できるため、低エネルギー、低コストでの製造が可能です。実際にインクジェット印刷に近い製法もすでに展開されています。
こうした特徴から、ペロブスカイト太陽電池はソーラーパネルのような長方形の形状だけではなく、軽く薄く柔らかいフレキシブルな形状にできます。例えば、建物の壁、あるいは車体、衣服といった曲面に設置して、太陽の光のエネルギーを活用して発電を行えるなど、設置場所の制限が緩くなることは大きなメリットです。
ここまでペロブスカイト太陽電池のメリットを中心に見てきましたが、実用化に向けては課題も残されています。たとえば、モジュール(ソーラーパネル)サイズの大面積化、そして変換効率や耐久性の向上といった課題です。
このモジュールの大面積化や変換効率の向上については、現在では開発が進んでいます。一般的なシリコン太陽電池では、太陽の光エネルギーから電気への変換効率が20%以上。なかには25%を超えるものもあります。それにはまだまだ及ばないものの、変換効率が15%を超えるペロブスカイト太陽電池も開発されています。
そして、実用化に向けて最大の課題となるのは、ペロブスカイトの不安定性です。
ペロブスカイトは酸素や水分といった外的影響を受けやすく、加熱劣化による内的不安定性もあります。こうした特性から、結晶内で結合に支障をきたしてしまうと、電子が効率よく移動できなくなり、太陽の光エネルギーから電気への変換効率が低下する可能性が否めません。
こうした課題が解決できなければ、ペロブスカイト太陽電池の安定稼働は困難になるため、従来のシリコン太陽電池から切り替わるのはまだまだ難しいとみられています。
また、ペロブスカイト化合物に鉛を使用していることへの懸念もあります。ペロブスカイト太陽電池に使用されている鉛は、鉛電池やカドミウム電池と比較すると少量ですが、周辺環境への溶出が不安視されているためです。鉛と同等の変換効率となる材料を見つける、あるいは外部に溶出しないような完全な封じ込めを行うといった対策が求められています。
ペロブスカイト太陽電池の実用化や販売に向けてはクリアしなければならない課題もありますが、すでに多くの企業が研究開発に取り組んでいます。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はペロブスカイト太陽電池の実用化を推進するため、200億円を投じた開発支援を行っており、東芝などの6つの事業が採択されました。ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた、主な企業の取り組みをみていきましょう。
東芝では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業の「太陽光発電主力電源化推進技術開発」の一環として、フィルム型のペロブスカイト太陽電池の開発を進めています。
2021年9月には703平方センチメートルのモジュールで、太陽の光エネルギーの電気への変換効率15.1%を実現し、フィルム型のペロブスカイト太陽電池として世界最高のエネルギー変換効率を達成しています。2018年の段階では変換効率は14.1%であったため、1%の向上を実現しました。2018年6月に開発したモジュールからさらに進化を遂げ、ペロブスカイト太陽電池の実用化に、また一歩、近づいた形です。
東芝では今後の目標として、2025年までにモジュールの900平方センチメートルへの大面積化を図るとともに、変換効率は20%以上、発電コストは1kWあたり20円以下のペロブスカイト太陽電池の実用化を目指しています。
リコーは宇宙航空研究開発機構(JAXA)とペロブスカイト太陽電池の共同開発を進めています。
これまでも人工衛星には太陽電池が搭載されてきましたが、ペロブスカイト太陽電池の軽量でコストを抑えられる特性は、人工衛星の開発においても大きなメリットになります。人工衛星の軽量化が図れれば、打ち上げコストの削減にも寄与するでしょう。また、放射線による劣化が少なく、光量が少なくても発電が可能であり、変換効率が高いことからも、宇宙空間での利用に向いているとされています。
そこで、リコーとJAXAは宇宙での利用も可能な耐久性が高く軽量化されたペロブスカイト太陽電池の開発を行っており、成層圏での実証実験でデータ収集を行った結果、暗い宇宙空間で高い発電効率を維持することに成功しています。
電子機器や情報通信機器を手掛けるホシデンは、滋賀県にある関連会社のホシデンエフディの既存のタッチパネルの製造ラインが転用できることから、ペロブスカイト太陽電池の事業に進出しました。ペロブスカイト太陽電池は軽量化が可能なため、モバイル機器やIoT機器への搭載への応用が期待できることが、開発に踏み切った理由のひとつです。
ホシデンでは2021年にサンプル生産をスタートし、2022年に量産用の生産設備の導入を行い、2023年から量産化を実現することを目標としています。
ペロブスカイト太陽電池は従来のシリコン太陽電池の製造における電力消費量や価格の高さ、設置場所の制限といった課題の解決が期待されている次世代太陽電池です。これまでは耐荷重の問題から設置が難しかった場所にも設置可能であり、ビルの側面など新たな設置場所も生まれることから、実用化によって太陽光発電のさらなる普及に貢献すると見込まれているのです。
宮坂教授がペロブスカイト太陽電池を開発したように、電池に関する研究開発分野は日本のお家芸でもあります。実用化・量産化に向けて日本が先行している全個体電池とならび、世界を牽引する技術開発が期待されます。
ペロブスカイト太陽電池によって設置箇所が大幅に増えることは、太陽光発電システムの新たな需要を掘り起こすトリガーにもなります。日本発のペロブスカイト太陽電池が、数年後にはビルの屋上や側面に設置されている。それは当たり前の光景になっているかもしれません。
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